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魔法の呪文  作者: ふりまじん
鍛冶屋のポルカ
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第2話舞踏会

「私は北の国の小貴族の娘で、12才の時に行儀見習いを兼ねて、

伯爵様のお嬢様の話し相手としてお屋敷に住み込みをしたんだよ。」

メアリーは懐かしそうに昔を語りだしました。


「行儀見習い……。なんか、素敵な響きだわ。」

トトは夢見心地に言いました。


「ウィーンはとても大きな街でね、オペラ座や夜会を開く屋敷の明かりで夜も、

昼間のように明るいんだよ。音楽の都と言われるように、歌があふれて…、

ああ、ヴィーナ・オーパンバル!!あれは、まさに夢の世界のようだった。」

メアリーはそう言って一度言葉を止めると、夢を見るように空を仰ぎ見ました。


「ヴィーナ・オーパンバル?な、なに、それはっ。」

トトはメアリーの様子に何かロマンチックな予感を感じてざわめきました。


「ヴィーナ・オーパンバル…それは、数多(あまた)のウィーンの舞踏会の中でも特別中の特別。

貴族の子供達が大人として社交界にデビューする、オペラ座でのハレの舞台。」


「ヴィーナ・オーパンバル…。」

トトは見たことのない、オペラ座で繰り広げられるダンスの祭典を思い浮かべてみました。

美しいオペラ座のシャンデリアのしたで、ハレの舞台を前に正装をした王子さまやお姫様が集まるのです。


「貴族に生まれたら、この日を夢に見ない女の子はいないね。ヴィーナ・オーパンバルで

デビュタントになる娘は、生涯でただ一度だけ、純白のドレスを来て踊ることを許されるんだよ。」


「はぁ……っ。」

メアリーとトトは同時にため息をひとつつきました。


「私も、デビュタントとして、あの晴れ舞台で踊ったんだよ。

男の子は黒の燕尾服女の子は銀のティアラに純白のドレスをまとうんだよ。

そして、一生に一回、特別な『お見合い』をするんだ。」

メアリーの頬が少し赤くなったのをトトは見逃しませんでした。


一生に一回の、特別なお見合い。


それはどんなものなのでしょう?

お見合いなんてしたことのないトトは、それを思ってドキドキしました。


「ああっ。素敵!」

トトは、思わず目を閉じて夢の世界に浸ります。



宵闇を照らす美しいシャンデリアの光。

美しく着飾る紳士・淑女。

厳かにオーケストラが奏でるのは、華やかなワルツの調べ。


真珠のように滑らかな肌と、炭のように黒く艶のある髪の美しいメアリーの相手は、

どんな素敵な紳士なのでしょうか?


「でっ、どんなイケメンだったのっ!!」

トトは待ちきれなくて思わず叫びました。


トトの希望としては、やはり、美しい金髪で、青い瞳の美少年。

北欧系の男性の特徴として長身。追加がきくなら足は長く細い感じ。

声は、涼やかなテノール。

口数は少な目でお願いしたい。



なんてトトが、常連のラーメンの注文みたいに希望を思い浮かべてみると、

メアリーはイケメンと聞いて笑い出しました。


「はははっ。残念ながらイケメン…ではなかったよ。

幼馴染みの男の子だったからね。身長だって高くないし…。

でも、正直、男は顔じゃないんだよ。実際、腕力が勝負なんだ。」

「腕力…?」

「そう、腕力。なにせ、舞踏会なんて、夜通し踊りあかすわけだし、なにより、

リフトされる事を考えたら、あんただって、そう考えるに違いないよ。」

メアリーはそう言って、細かく説明してくれました。


ダンスによっては、男性が女性を持ち上げる…リフトと言われる行為をするのですが、やはり、軽やかに高く持ち上げられたいのが人情です。


日々のダンスの練習と、食事制限で体を整えはしますが、それでも、持ち上げられる女性の方はたくましい男性の方が安心です。


「私の相手のフランクは、安定感のあるいい人でね、顔だって…イケメンとまではいかないけれど、チャーミングだったよ。」

メアリーはフランクを思い出して優しい、けれど少しだけ寂しげな顔になりました。


「うん。なんか、わかる気がする。」

トトは、いつも重い荷物を黙って運んでくれる、三つ年上のレオを思い出して頷きました。

レオもイケメンではありませんが、荷物を運んでくれるとき、トトを見つめる優しい顔はとても素敵に見えました。


「私はフランクがきらいじゃなかったよ。だから、彼が私の相手だと両親に聞かされたときはとても嬉しかったんだよ。なにしろ、彼はとても逞しい男で安心感があったからね。美しい白いドレスを着て彼にエスコートされて踊るのはとても素敵だったよ。曲は、今でも忘れない。あれは『鍛冶屋のポルカ』。」


「鍛冶屋のポルカ?」


トトはメアリーの話にがっかりしました。


だって、貴族の舞踏会で鍛冶屋の曲なんて演奏するはずはありません。


トトは折角の楽しい夢に水をさされて落ち込みました。


「どうしたんだい?急に黙りこんで。鍛冶屋のポルカは嫌いかい?」

メアリーはトトの気持ちに気づかずに心配しました。

「鍛冶屋はポルカなんて演奏しないわ。隣町の鍛冶屋のハンスおじさんは、

春祭りの為にアルペンホルンの練習はするけれど、ポルカなんて知らないわ。

第一、貴族様が鍛冶屋の歌なんて舞踏会で踊るわけないもの。

折角、素敵な夢を見ていたのに、もっと上手な空想で楽しませてほしかったわ。」

トトは肩を落としてため息をつきました。


その様子を見ていたメアリーは、トトが自分の話を空想やおとぎ話だと思っていた事に驚きました。


「お嬢ちゃん!あんた、私を疑っていたんだね?とんだ大嘘つきだと。」

「あらメアリーさん、空想は嘘ではないわ。人生を美しく彩るものよ。

魔法の呪文なんて…、子供だましの話だと思ったけれど、途中まではとっても素敵だったのに。

『鍛冶屋のポルカ』で台無しになってしまったわ。」

トトは、そう言って肩を落とし、

メアリーは今時の子供の大人びた考え方に怒るのも忘れて呆れてしまいました。


「全く、今時の子供と来たら、魔法も魔術も信じないのだからね。

嬢ちゃん、世界はお前さんの考えているより広くて、不思議に溢れているんだ。

どれ、『鍛冶屋のポルカ』を聞かせてあげよう。歌っておくれ、お前達。」

メアリーがそう言って、小鳥に話しかけると、小鳥達はメアリーの近くにやって来て、

かわいい声で歌います。


『鍛冶屋のポルカ』と言う曲は本当にあります。


ヨーゼフ・シュトラウスと言う作曲家がつくり、舞踏会でも演奏される名曲です。

でも…外国では、鍛冶屋のポルカと言う名前ではないようですが。



トトはそんなことは知りませんが、小鳥達のかわいい四重奏を聞きながら、この名曲が本当にあるんだと納得しました。


だって、


いつもは話しかけても知らんぷりの小鳥達が、メアリーの言う事は聞いて、こんなにかわいい曲を奏でるのですから。


メアリーは本物の魔女に違いありません。


そうなると、はじめに聞いた魔法の呪文が気になります。


本当にそんな呪文はそんざいするのでしょうか?


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