愛の夢
なかなか目を覚まさないフランクを家の人たちは心配していました。
一日眠り続けるフランクの元に、実家の使用人ジョージが見舞いに来たのは、深夜を過ぎた頃でした。
真夜中とはいえ、フランクを心配する屋敷の人たちはまだ起きていて、ジョージを優しく迎え入れてくれたのです。
ジョージは、フランクの所へ急ぎました。
ジョージは、アイルランドから15才の時に知り合いをたより、バイエルンへ働きに来たのです。
1970年のフランスとの戦争の時にフランクのお父さんの下で働いていましたが、
足に怪我をしてフランクの家の使用人になりました。
子供が好きだったジョージは、小さなフランクの子守りを良くしていました。
フランクのお母さんが亡くなってからは、まるで親戚のようにフランクの事に心を配りました。
そんなジョージは、フランクがどんなにメアリーが好きだったのか知っています。
メアリーが失踪して、フランクが半狂乱になったと聞いて、やもたてもたまらずにやって来たのでした。
眠るフランクの横で、ジョージは、椅子に座ってカバンを広げました。
そして、少しくすんだイビツなセーターを取り出すと、布団の上からフランクにかけてあげました。
「フランク坊っちゃん…、いくら辛くても、お酒に逃げても解決はしやせんよ。」
ジョージは、フランクがメアリーが消えて探し回り、不安を無くそうとお酒を沢山飲んでいた事を聞いて、とても悲しい気持ちになりました。
フランクは、もうお酒も飲める大人でしたが、
こんな無茶な飲み方をする人ではありません。
「こんな事を知ったら、メアリー嬢ちゃんは、お嫁さんに来てくれませんからね。」
ジョージは、少し形の悪いセーターの模様の中に、間違いを見つけて苦笑しました。
このセーターは、ジョージがメアリーに教えて作ったセーターです。
ジョージの育ったアイルランドの島では、各家ごとに違う模様のセーターを編むのです。
その編み模様には、海に出て行く男の無事を祈る女性の願いが編み込まれると言われています。
15才の時、学業を一度休んで山の国境を守る仕事をつくことにしたフランクの為に、メアリーが頑張って編んだものでした。
後にアイルランドのセーターは、フィッシャーマンセーターと呼ばれ、
現在でも、愛されるファッションアイテムですが、
ジョージが教えたのは、もっと素朴な、
大昔から伝わるセーターです。
それは、寒い時期、水を弾き、
防寒具として作られたものなので、
毛糸は、あまり油抜きをしていないので少し臭いし、ベタベタするのですが、 メアリーの愛情と言う名の根気が、何段もの網目となって重なりあう、
大作です。
ナイロンが発明されるより少し昔のメアリー達の時代には、
セーターは水を弾き、体温を逃がさない実用的な防寒服でした。
フィッシャーマンセーターの伝説は諸説あるようです。
私が子供の頃、読んだ記憶のあるアラン模様の伝説は、正確とも言えないようです。
ウィキペディアによると、セーター自体は随分昔からあるようですが、現在、お店で見かける
アイリッシュセーターは、20世紀初頭から作られた、なんて話もネットで見かけました。
基本、妻が愛する男性のために編む、と、聞きましたが、
私の記憶が正しければ、男性も編んでたようなので、そんな感じで話を作っています。
ここでは真実にこだわらず、物語を作っていますのでご了承くださいm(__)m