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第三編 勇者編 第三章 決着「いろんな意味で」(7)


 ここ最近、未久のことであたまがいっぱいっぱいになっていた俺は疲れた体を一刻でも早くとるべくベッドに横たわり、布団にもぐった。


「ぐぇっ」


 そして、半分眠りに落ち掛けたとき体に衝撃を感じて目を覚ます。


 いったい何が…。


 俺は状況を確認しようと視線をめぐらせる。すると、誰かが俺の上に跨っていた。そして、頭によぎったのは「暗殺」という二文字。

 いくら魔王国の中心の城と言えど、聖騎士を捕縛している今ありえないことではなかった。


 そう思った瞬間、スキルを発動させる。それにより、顔に近ずいてきていたその腕をつかみ、そのまま前に引き寄せ代わりに俺は体を起こしマウントをとり、腕は背中に回させることにより、警察官が犯人を取り押さえるように背中を抑えつけた。


 そして、そこで俺はあるものに気が付いた。


 今までに何回も見てきたそれを、海斗は見間違うはずがない。

 そう、頭からぴょこんとかわいらしく生えているウサギ耳である。だが、今はその可愛い耳は驚きからぴんと張り詰めていた。 


「ご、ごめんっ」


 そこまでいって初めて、俺は誰を抑え込んでいるのかに気が付き慌ててつかんでいる手を放す。


「大丈夫か?」


 俺は自分でやったことながらも、心配げにサナに声をかける。

 すると、体をくるりと回転させサナがこちらに顔を見せると、その顔に幾重もの涙が零れ落ちてい

た。 

 それを見て、俺は背筋が凍るのが分かった。


「ごめんっ、サナ。本当にごめん」


 俺がそう言って必死に頭を下げると、サナは両腕で涙拭いながら首を振る。


「…ち、ちがう。そうじゃないの」


 そういうサナを見て俺の頭の中はハテナマークが浮かぶ。

 違うってどういうことだ? 俺はてっきり思いっきり抑え込んでしまったから痛かったものだと思っていたが、それは違うということか。

 そんなことを思っていると。


「なっ!」


 今度は未だベッドに倒れたままのサナが俺の腕を掴むとそのまま引き寄せ、強くその華奢な両腕で抱きしめてきた。

 急なことに俺は戸惑いを見せるが、抱きしめてくるサナがかすかにふるえていることに気が付き、そのまましばらくの間サナに身を任せるのであった。





 しばらくして、俺はベッドの上に正座をしていた。

 この世界に来てから正座なんてしていなかったからか、大した時間もたっていないのに俺の足は限界を迎えようとしていた。

 そして、俺の目の前には同じく正座をし、目の周りを赤くはらしたサナがいた。


「海斗、私が怒っているのは分かるわね」


 いつもはかわいく見えるウサギ耳が、今はぴんと伸びておりそれがなぜかとても怖く感じてしまう。


「…はい」


「じゃあ、なんで怒っているかもわかるわね」


「…おそらくは」


「なに?」


「えっと、最近ずっと避けていたからでしょうか」


「…」


 どうやら違ったようで、こちらを見つめた目をそのまま微動だにせず、まるで眼光で射殺されてしまいそうになるほどだった。


「…はぁ」


 俺が、そのままわからず黙りこくっていると、サナが諦めたようにため息をつき、それと同時にウサギ耳もへにゃっと力なく下りる。


「確かに、最近海斗に避けられていたのは悲しかったし寂しかった」


 先ほどまでの怒気が消え、今は掻き消えてしまいそうな声でそう口にし、「でも…」と続ける。


「それ以上に悲しかったのは…」




――― なにか悩んでいるときに、


私に一言も相談してくれなかったこと、頼ってくれなかったこと ―――



 そういって、サナは膝の上に乗せた手に力がこもり拳を作った。そして、その上に頬をつたった涙がポツンと落ちた。

 その姿を見た瞬間、自分の傲慢さに気が付く。


 そうか、俺は表面ではきれいごとを考えていながら、結局は俺は俺が可愛かっただけだ。命なんて大層な者を考えていたのではない。ただ、恐れていただけだったのだ。自分が本当に人殺しだと容認することが…。

 しかし、そのせいで俺は、傷つけたくなかった人を知らず知らずのうちに気付つけていたのだ。


 そのことに気が付いた俺は、そのバカな頭を思いっきりベッドへとこすりつけた。


「ごめんっ! 俺は、俺は最低だ。本当に申し訳なく思う。俺は、自分自身が誰かの命を奪っているということを認めたくなかった。そういう汚い奴なんだ。そんなくだらないことでサナに余計な心配をかけさせて、傷つけて、俺は、俺は…」


「顔を上げて…。海斗」


 頬に温かな感触を感じる。そして、それに促されるように顔を上げると、そこにはサナの顔が目の前にあり思わず息を呑む。

 その瞳は、先ほどまで泣いていたせいかいつもよりも輝き透き通っていた。まるで、その瞳に吸い込まれるような錯覚を覚えるほどに。


「海斗、海斗は人間。だから、そういう感情を持ち合わせていてもおかしくない。だけど、それでも海斗

は海斗。たとえ、海斗が聖騎士でも、魔王でも、殺人鬼でも、私はいつまでも海斗の味方。もしも、海斗が背負おうとしているものが辛いって言うなら…」




 ――― 私が一緒に背負ってあげるから ―――




「だから、そんな顔しないで、ね。」


 そういって、目じりに涙をためながらほほ笑むサナをみて、俺もつられて顔がほころぶ。そして、俺を

がんじがらめに固めていた何かが壊れたような気がした…。


「ありがとな、サナ。もう大丈夫だ」


「そう、それはよかった」


 その後、俺たちはここ何日かとれていなかった時間を取り戻すかのように夜を過ごしていったのだった。





遅れたのにこの文字数、申し訳ないです…。

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