第三編 勇者編 第三章 決着「いろんな意味で」(3)
更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
しばらく兄妹でたわいもない話をしていると、そっとドアが開きスフィアがこちらの様子を窺うように顔を覗かしていた。
俺がドアの音に気が付き振り向いたことで目が合ったので、もう大丈夫だと手招きをし中に入れる。
「失礼します」
その後ろに付き従うようにサラさんも部屋に入ってくる。
「ルーシーは?」
「刻印のことがありますので念のため別室で待機してもらっております。それと、今回のことがありましたので、念のためミーシャの監視もしてもらっております」
チラッと、未久を見て気まずそうな顔をしながらそう答える。
「そうか。それで、スフィアは話を聞きに来たのか」
「はい。一応確認しておかなければならないことなどたくさんありますので」
それを聞き、俺が椅子に座るように促すと俺に一言お詫びをいれて腰を下ろす。
「それではこれからお話を聞くことになりますが、海斗様はいかがなさいますか」
俺は未久に一瞬視線を向ける。表情は先ほどよりも和らいではいるが、どこか無理をしている感じにも見える。そんな状態の未久を一人にさせるわけにはいかない。
そう思い、俺も同席することをスフィアに伝える。
スフィアは少しだけ笑みを作ると、すぐに未久に向き直り仕事に戻った。
「それでは海斗様も来たことなので、確認も含めて最初から質問させていただきます」
それを聞き、緊張した面持ちで「はい」と返事をする未久。
そして、改めてこの世界に召喚されてからの行動や経緯を一から説明していき。要所要所でスフィアが説明していく感じであった。
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「ありがとうございました。枷は外すことはできませんが、何かあればサラに言ってくだされば問題ありませんので」
「はい。こちらこそありがとうございました…」
それを聞くと、「私はこれで」とスフィアが部屋を出ていく。ちなみにサラさんは部屋で待機したままだ。
「大丈夫か」
「うん」
やはり未だ心の整理がつかないのか、未久の顔は元に戻らない。
「ねぇ、お兄ちゃん…」
「どうした」
「私、罪のない人を殺したんだよね…」
「…あぁ」
「私、ただの殺戮者だね」
「そんなこと…」
先ほどよりも顔をゆがめながらそう尋ねる未久に、俺は言葉を詰まらせた。先ほど、涙を流したことで少しは楽になるかと思ったんだが、そんなに簡単な話ではないということだろう。
それだけ、命というものは尊いものであり軽んじてはいけないものであることの裏返しではあるのだが、今はそれがとても重くのしかかってきていた。
何も言えなかった。
だから、俺はただ未久の手を握った。それを未久はぎゅっと力づよく握り返してきたので俺も握り返した。
そのまま、サナが俺をよびに来るまで俺たちは黙ったまま手を繋ぎ続けた…。
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未久と手を繋ぎそのままでしばらくの間居ると、「コンコン」とドアがノックされる。返事をすると、サナが中へと入ってきた。
もちろん今は完ぺきに仕事モードだ。
「失礼します。海斗様、そろそろお昼の時間ですがいかがなさいますか」
俺はそういわれ、窓の外に目をやる。
太陽がちょうど真ん中あたりに来ており、相当な時間がたっていたことを今になって気が付く。
「ここで未久と一緒に食べるからここに持ってきてもらえると助かる」
「かしこまりました」
そういうと、一礼してサラさんと一緒に外に出ていく。状況が状況なので、サナとともにご飯が食べれないが、今はそんなことよりも未久の方が心配なので仕方がない。
しばらくすると、サラさんとサナがお昼ご飯をもって戻ってきた。
そして、ご飯を置くと一言断って部屋を後にしていった。
ちなみに、俺と未久はここまでずっと手を繋いだままだ。
サナが入ってきたときに、手を離そうかと迷い力を緩めたが、離さないように未久がぎゅっと握ってきたため握り続けていた。
「食べるか」
「うん」
それだけ言って、手を繋いだままご飯を食べる。
結局、その日一日中未久と手を繋いでいた。
目を開けると、ひかりが目に染みた。
眠たげな眼を頑張って開いて状況を確認する。どうやら手を繋いだままいつの間にか寝てしまい、夜を越していたらしい。
俺はようやくそこでつなぎっぱなしだった手を離す。そして、寝息を立てている妹の頭をやさしくなでる。
「ごめんな。俺がもっと強かったら、未久を傷つけることもなかったのかもしれない…」
そのまましばらくの間未久の寝顔を眺めていると、何やら外が騒がしくなっていた。
「なんだ?」
俺は訝しげに思いながらドアノブに手をかけて外に出る。すると、視界を出た瞬間にふさがれた。
「うぶっ」
「ひゃっ」
何やらかわいい声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には視界が光を取り戻していた。
「スフィア?」
「海斗様」
どうやら先ほどの暗幕はスフィアの翼だったらしい。ただ、いつもなら翼に触れられ頬を赤らめるはずなのに、今日はなぜか申し訳なさそうにしている。
そこで、初めて周りを見渡す。
「これは?」
「えっと、少し問題が生じまして…」
そういって、周りに目をやる。
今、俺たちの周りには憤怒と憎悪に満ちた目で俺たちを取り囲む魔族たちの姿があった。
そこで、一人の男が一歩前に出る。
「海斗さんよぉ、あんたの身内だからって聞いてたから勇者だということにも目をつむってきた。しかし、今回のことで何人も仲間が死んだ。さすがに、俺たちも、限界なんだ…」
そういう男の目には、周りの人間のように怒りや憎しみのような感情も含まれていたが、どこか寂し気な、悲し気な感情が読み取れた。
その男の後ろからもいろいろと荒げた声が聞こえる。
「待ちなさい。彼女の身体は魔王様に一任されているはず。そのように、部屋に押しかけあまつさえその
ような発言。魔王様に逆らうつまりか」
「「ぐっ…」」
その言葉に、その場にいたすべての者が唾をのんだ。
とりあえず、その場はスフィアが彼らを説得し、とりあえず彼らにはひきさがってもらった。
「申し訳ありません、旦那様。私がいながら…」
静かになった未久の部屋の前でスフィアは俺にそう頭を下げる。
「いいって。それに、彼らの気持ちはもっともだ」
「旦那様」
チラッと部屋の見張りの兵士に目をやると、彼らもあからさまではないが苦い表情をしていた。
「あれが普通の反応だよ。どちらかというと、良くここまで抑えられていたともいえる」
「そう、ですね。さすがはルーシー様といったところです」
「それで、ルーシーはなんて…。あ、場所を変えたほうがいいかな」
「はい、内容を聞かれるのは問題ないですが中途半端な内容が流れると変な噂が立ちかねませんからね」
「なら、もう直接ルーシーのところに行けばいいか」
「そうですね。では向かいましょう」
そういって、ルーシーの部屋に向かい足を踏み出した時だった。
「なんだ?」
廊下の先からこちらに駆けてくるものがいる。一瞬、先ほどの奴らが何かしに来たのかとも思ったが、
違った。
男は目の前まで来ると、息を切らしながらもきちんと礼をして口を開く。
「急いで魔王様の部屋へ向かいください」
――― スレべニア王国から、使者が参りました ―――
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




