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第三編 勇者編 第二章 誰が妻でしょう(9)


「お、おい。大丈夫か」


すると、廊下に倒れているものを見つけ慌てて駆け寄りながら声をかけるが返事はない。

なぜなら、その者の首から上が切り離されていたのだから。

それを見た瞬間、一気に胸中に渦巻いていた不安が溢れ出した。


「美久っ」


(この城の中で何かが起きているのは確かだ。もしかすると、美久がそれにまきこまれていまったんじゃないかそれに巻き込まれていまったんじゃないか)


俺はそんなことを思いつつ、死体と大きな傷を抑えながら蹲る者たちの後をたどり、この騒動の中心と思われる場所を目指す。


(この方向、もしやルーシーにもなにか…)


 そんな胸に渦巻く不安をあおるように、大きな衝撃音が場内に響き渡る。

 猶予がない、俺はそんな気がした。

 先ほどよりも速度を上げる。

最後の曲がり角を曲がる。


 そして、見たのは今にも膨大な魔力をルーシー達に向かい放とうとしている妹の姿であった。

 身体は勝手に動いた。

 状況は理解できていなかったが、何をすべきなのかを体は理解していた。


「っ…」


 落ちている誰かの剣を拝借し、俺は未久とルーシーの間に割り込む。

 そして…。


「すまん、ここは俺に任せてくれ」


 能力で斬撃を弾き飛ばして、そう口にしたのだった。



「くそっ」


 身体には傷がいくつもできていた。どうやら完ぺきには斬撃を弾けなかったらしい。つまりそれは、俺の能力を上回った攻撃であったということだった。

 俺は木を引き締めなおす。


「おい未久、どうしちまったんだよ」


 俺は最大限警戒しながら超えをかける。しかし、返ってきたのは攻撃の嵐であった。

 いくつもの斬撃が飛ばされ、その間に距離を詰める。そして、振り下ろされる剣を受け止める。


「ぐっ」


(なんて力だ)


 地面にひびが入る。


(やばいこのままじゃ押し切られる)


 だがそうはならなかった。未久が一瞬にして攻撃をやめ後ろに飛び退ったからだ。そして、直後に目の前を閃光が過ぎ去る。


「ご無事ですか」


 どうやらスフィアがまずいと思って手を貸してくれたらしい。


「あぁ、助かった。しかし、あれはどうなっているんだ」


 俺は隣に並んでくるスフィアに尋ねる。


「あれは勇者の本来の姿。未久殿であって、未久殿でないのです」


 そういって、簡潔に説明をしてくれる。


「つまり、プログラムが起動しているってことか」


「それじゃあ、もう未久は助けられないのか?」


「いえ。一つだけ方法はあるかと」


「本当か」


「今までの攻撃を見るに、奴は肝炎な状態ではない。察するに、中で未久が抵抗しているからであろう。つくならそこじゃ」


 そうルーシーが壁に手をついて立ち上がりながら言う。その体は満身創痍といった感じであった。


「ルーシー!」


「大丈夫じゃ、それよりも未久の意識を呼び起こす方法を考えるのじゃ」


「未久の、意識を…」


 それを聞いた瞬間、俺はある方法を思いつく。


「わかった。スフィア、俺はこれからあることをするがそれで未久が止まらなかったら、頼むぞ」


「ご主人様、なにを」


 俺はスフィアの返事も聞かずに飛び出す。

 目の間に火球が迫るがそれを切り裂いて進む。

 その余波で皮膚が焼けるような感覚があったが今はきにしていられない。


 俺は未久の懐に入るべくさらに距離を詰める。

 斬撃をはじき、迫る。


「くっ」


 弾けなかった斬撃が傷を作る。

 しかし、止まらない。

 俺は右手の剣を大きく振りかぶり、斜めに振り下ろした。


「がはっ…」


 俺は、血を吐いた。


 いつの間にか俺の右わき腹に剣が生えていた。


「海斗」


「ご主人様っ」


 意識が途切れそうになる。

 だが、ここで、この一瞬を耐えなければ。

 俺は最後の力を振り絞り、県がさらに食い込むこともためらわず未久の体を抱きしめた。


 途切れそうになる意識のなか、俺は最愛の妹に語り掛ける。


「み、く。なぁ、戻ってきて、くれ。俺の、愛する妹よ」


 その瞬間、未久は先ほどまで抱擁から逃れようと暴れていた体を止め、まるで気の停止した時価のように固まった。

 そして、無表情なその顔を光るものが流れ落ちるのだった。


 俺はそれをみたのを最後に、意識が落ちた。



最後まで読んでいただけるだけで感謝です。


前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。

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