第三編 勇者編 第二章 誰が妻でしょう(8)
すみません、短めです
だが、その間にも攻撃は続く。
右上段から左下段。
左上段から右下段。
それが一瞬のうちに行われ一気に斬撃が襲う。
もちろんそれをルーシーは横に跳びのきかわすが、それを予想していたかのように美久が移動して一閃する。
慌ててシールドを構築するが、勢いを止められずにそのまま壁を突き抜けてしまう。
「くっ、これほどかの」
これでも魔王と呼ばれる者が完全に勇者に対し、防戦一方となってしまっている。
ルーシーは未久の動きに注視しながら立ち上がる。
その体は既に傷だらけとなり、あちこちから血がしたたり落ちていた。
城の異変に気が付いたようで、兵士がだんだん集まってくる。
「ルーシー様」
「魔王様」
そういって兵の先頭に出てきたのは、スフィアとミーシャであった。
「む、二人か。私は大丈夫じゃ。それよりも周りの兵士を下げさせろ。中途半端な戦力では被害を増やすだけじゃ」
ルーシーがそういうと、他の兵士たちは悔しそうな顔をしながらもその指示に従う。
「あれが、本当に勇者殿なのですか」
スフィアは未久の異常な様子にそうこぼす。
「教会の仕業じゃ。どうもここ何日間も何もしてこないわけじゃ」
悪態をつきながら歯ぎしりするルーシー。
そういっている間にも攻撃を仕掛けてくる未久。
それをスフィアと二人で結界を張り防ぐ。
「いったいどうしたらよいのでしょうか」
「今、未久を動かしておるのは未久ではなく、戦闘プログラムのようなものじゃ。だから、未久の意識を覚醒させることができればもしくは…じゃな」
だが、その瞬間目の前にとてつもない殺気を感じて未久を見やると次の瞬間途轍もない魔力の斬撃がこちらへと跳んできていた。
未久はルーシーとスフィアが話していた一瞬のうちに魔法を練り上げていたのだ。
「まずい」
「ここは私が」
スフィアが慌ててルーシーの前に出る。
「間に合わないっ」
そして、次の瞬間目の前が光に包まれる。
「…」
その魔法によりすべてが吹き飛ぶ、はずだった。
何が起きたのかわからず、恐る恐る閉じた目を開ける二人。
するとそこには…。
「すまん。ここは、俺に任せてくれ」
体中に傷を作った海斗がいた。
「うぅ」
俺は真夜中にもかかわらず何故か目を覚ます。
午後の特訓の疲れが残っているためか倦怠感を覚えるが、なんとか体を起こした。
そこであることに気がつく。それはいつも俺に抱きつきながら寝ているはずの美久がいなくなっていたのだ。
俺は寝ぼけまなこのまま辺りを見回すが、見当たらない。
(トイレにでも行ったのかな)
そんなことを思い、もう一度眠りにつこうと布団をかぶるが。
「…」
「なんか嫌な予感がする」
こんなことを言うとフラグにしかならないとわかっていながらそんなことを口にしてしまう。
とりあえず、不安感で寝るにもねれないので水でも飲もうと机の方に歩いて行ったのだが、水の入っているはずの瓶にほとんど入っていなかったため、食堂に取りに行こうと部屋を出た。
しかし、そこで異様な雰囲気時気がつく。周囲に立ち込める鉄のような匂いに、暗闇の中から聞こえてくる妙な呻き声。
「な、なんだ」
俺は恐る恐るその声がする方へと歩みを進めた。




