第三篇:勇者篇 第二章 誰が妻でしょう(6)
未久がこの砦に来てから五日が経った。しかし、教会側になにも動きがみられない。
「いったいどうしたものか」
「そうですね」
スフィアは机に広げられた地図を見つめてそうこぼす。
なぜ俺がスフィアといるかというと、単に「これからについてお話が」と呼ばれたからだ。
「三日もたったなら、そろそろ動きを見せてもいいころ合いですが…」
スフィアは不安げにそういう。
かくいう俺も、この静けさに何とも言えない不安を覚えていた。
「何もなさすぎ、だな」
「はい」
そこで、俺はふと疑問に思う。
「奴らはどこに行ったんだ?」
「奴らとは、あの聖騎士連中の事でしょうか」
どうやら、声に出ていたらしくスフィアが反応する。
「あぁ。たしかここら辺からこっちの方向だよな」
俺は地図上をなぞりながら予測を立てる。
「この方向に行ったのだとしますと、ここ、ですね」
そういってある一点を二人が見つめる。
「スレべニア国か…」
公式には発表してはいないが、スレべニアは既に魔王側の国となっている。
なので、城の中には転移陣が設置されておりすぐに様子を見に行くことも可能なのだが、彼らがそれを知って国へ向かったのかどうか海斗たちには分らなかった。
「どう思う」
俺はスフィアに意見を求める。
そして、少し思案した後。
「もし私たちの関係を知っているのであれば、すぐにでも行ったほうがいいでしょう。知らないのであれば、逆にいかないほうが得策かと」
「うーん」
俺は頭をフル回転させ、対応を考える。
(うん、わからん)
その後も、あぁでもないこうでもないと話し合う。
俺はないながらも頭を使ったので少々疲れを覚え、額を抑える。
すると、それに気が付いたスフィアが心配そうに声をかけてくれる。
「お、お疲れなのですか」
「ん? いや、大丈夫だよ」
「そうですか」
なぜか残念そうにこちらを見る。
(え、なんでそんな顔するの)
そう思ったのだが、突然立ち上がると「やっぱり駄目です」といってこちらに歩いてくる。
そして…。
「どうぞ、私のベッドをお使いください」
そういって無理やり俺を立たそうとする。
「え、いや、本当に大丈夫だから」
俺はなんだかこのままここでスフィアの言うとおりにすると嫌なことが起きそうな気がして、必死に抵抗する。
(というか、スフィアが無理やり俺を立たそうとするとその、胸が体に押し付けられて、ちょっといろいろまずい。何がとは言わないが、まずい)
だが、俺の抵抗はむなしくずるずるとベッドの方へと連れていかれる。そして…。
「バスッ」
ベッドに押し倒された。
「わかった、分かったから、寝るから一回落ち着いてくれ」
俺はそういって何とかスフィアを制止する。
「わかりました」
(というか、なんでお前はそんなに顔が赤くなってるんだ。お前が休んだほうがいいんじゃないのか)
そんなことを思いつつ、掛布団を整えようとしたのだが。
「あれ」
「いかかがなさいましたか」
「いや、掛布団は?」
「え、えっとそれでしたら、い、いま準備いたします」
そういって顔を真っ赤にしながら、俺の隣に寝転がってきた。
「あの、スフィア」
「な、なんでしょうか」
「掛布団は」
俺がそう尋ねると、「とにかく横になってください」といわれたので言われたとおりにする。すると。
「バサッ」
スフィアの翼が俺の体を覆ってきた。
「い、いかがでしょうか」
スフィアは羞恥に耐えながら尋ねる。
翼人族にとって、翼を触られることは人が恥ずかしいところを触られるのと同義であり、そして、今回はそれで体を覆っているのだ。
故に、この行動はスフィアにとってとても大胆な行動といえた。
「わ、わるくないよ」
俺は、今まで感じたことのない翼の温もりに心が安らぐような錯覚を覚える。
ふさふさだがもふもふ。前世に羽毛布団というのがあったが、これはそれの最上級のものと言えるだろう。なんせ、この羽からはスフィアの暖かさや優しさといったものが感じられるのだから。
疲れていた俺は、そのまま意識を手放してしまった。
そんな俺の寝顔を、スフィアが見つめていたのは知るよしもなかった。
あの後、昼寝程度の睡眠をとった俺はスフィアに感謝を述べ自室に戻ろうとしたのだが、途中でルーシーに捕まり「最近のお主はたるんでおる。儂が直々に鍛えなおしてやるのじゃ」とかなんとか言われて、そのまま魔法の特訓をさせられた。
「つ、疲れたぁ」
既に空にはいくつかの星が姿を現していた。
俺は魔力をたくさん使った影響でヘトヘトになった身体に鞭を打って部屋へと向かう。
(というか、今日はやけにキツかったな。それに、「それだからあんな脂肪の塊に惑わされるのじゃ」とかなんとか変なこと言ってたし)
俺はため息をつきながら自室のドアを開ける。
すると、一つの影が俺に飛びかかってきた。
「お兄ちゃんお疲れ様!」
「あぁ、ありがとな」
俺に抱きつく美久の頭を撫でてやると、「ふにゅ」と可愛い声を漏らす。
俺の妹にはもったいないなと思ってしまうのは内緒だ。
「ん?」
「どうしたのお兄ちゃん」
俺は、無意識に美久の右手を取る。
「ひゃっ」
俺がいきなり触ったために変な声を出すが、俺は気にせずにその手の甲に目をやる。
「これ、どうしたんだ」
そういって、とった美久の手の甲には、光を放つ紋様が浮かび上がっていた。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




