第三篇:勇者篇 第一章 再会(12)
未久が話しているときの雰囲気は今まで感じたことのないものだった。そして、時折目から光が消えていた。
(まさかブラコンがここまで進行していたなんて…)
確かに、未久の好意には気が付いていたがそれでも兄妹だ。いつか嫌われてしまう日が来てしまうのだろうと思っていたのだが…。
とりあえず、今はそのことは置いておくとしてと。
「あぁ、未久」
「なに? お兄ちゃん」
俺が呼びかけると、先ほど時々見せた暗い表情とは真逆の屈託のない笑顔で返事をする未久。
「教会は本当に俺が魔王にとらえられてるって言ったのか」
すると、未久は再び瞳から光を消す。
「そうだよ。だからここまで来たんだよ。だから、ね。帰ろう。お兄ちゃん」
まいったな。どうやら未久はうそを吹き込まれてしまっているようだった。なのでそれを訂正しようとする。
「あのな、未久。落ち着いて聞いてくれよ」
「うん」
「俺は魔王に捕まってなんかいない」
「えっ…」
その瞬間、切っ先が未久に迫る。
俺は反射で対応する。
何とか剣を受け止める。
「何しやがる」
「お兄ちゃんっ」
「海斗っ」
「そうですね。ばれてしまっては仕方がありませんからね。人類の敵になるものは排除するんですよ」
そういって、不気味な笑みを浮かべるのは先ほど攻撃してきたほうではない騎士だった。
そして、俺にはそんな顔をするやつの方がよっぽど魔物に見えた。
俺は剣に力を籠めて思いっきり振り抜く。
すると、男はその力を利用して後ろへと跳ぶ。
「どういうこと、レミーロ」
未久も剣を抜き、体勢を整え声を上げる。どうやらこの男はレミーロというらしい。
そして、会話の流れから何か察したのかサナもいつの間にか体勢を立て直し俺たちの後ろで臨戦態勢をとっていた。
「海斗…」
「すまん、サナ。話はまたあとだ」
「はい」
俺は再び目の前の敵に集中する。
「ふっ、あなたもばかな娘だ。あなたのお兄さんがどこにいるかなんて知るわけがないでしょう」
レミーロはやれやれといったように頭に手を当て左右に振る。
「騙したの…」
「騙されるほうが悪いんですよ」
「クズ野郎だな」
俺は改めて周りを確認する。
正面にレミーロ。右にさっきのいかれ野郎。左に女魔法使い。
人数的には同じだが、如何せん。サナは戦うことはできない。どうしたものか…。
「ヒャッハー。いいねいいねこの緊張感。これだから戦いはたまんねぇ」
睨み合う両者。
「…」
「…」
『海斗、伏せろ』
頭の中にその言葉が響く。
俺は瞬時に指示通りに二人をかばいながら伏せた。
そして…。
「ドォォォォ」
爆発がすぐそばで起きた。
「くそが…」
爆発音が収まり、顔を上げるとルーシーの姿が空にあった…。
「ふむ。さすがに聖騎士か、防がれてしまうとはの」
俺は男たちの方を向く。
すると、黄色の結界のようなもので攻撃を防いでいた。
「いったん引くぞ」
「おい、マジかよ」
「さすがにこれでは分が悪い。いったん体制を整えます」
どうやら彼らは逃げる気らしい。
俺は二人の無事を確認すると、一瞬で駆けだす。
「逃がすかっ」
「無駄です」
「フラッシュ」
「なっ」
男が呪文を唱えた瞬間、俺の視界が真っ白になる。
「なんじゃ」
それはルーシーも同じだったようで困惑した声が聞こえる。
そして、俺たちの視界が戻った時には男たちの姿は見当たらなかった。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




