第三篇:勇者篇 第一章 再会(2)
「なにを…」
「なにをしているんだ」といって、サナをはがそうとしたのだが、肩口に顔をうずめているサナから鼻をすするような音がして思いとどまる。
そして、服がどんどん湿っていくのも分かった。
「よかった…。無事で、本当によがった…」
どうやら俺は、とんでもなく鈍感だったらしい。
こんなにも周りに心配をかけていたなんて…。
俺は突き放そうとしていた両手を、サナの背中に回しそっと俺も抱きしめ返す。
「わるい、心配かけた」
「私、ルーシー様から海斗が行方不明になったって聞いて心配で心配で。でも、私は一メイドに過ぎないから、何もできないで…。わたし、っ…」
「ごめん」
俺はただそういって、彼女の頭をやさしくなでる。
「か、いと…」
そして、しばらくの間俺たちは抱き合ったままでいた。
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「ごめんなさい、取り乱してしまった」
「い、いや」
あの後、冷静になった俺たちは部屋の椅子に机をはさみ対角線に座っている。そして、先ほどまでのことがとても気恥ずかしくなってしまってお互いに顔を向けることができずにそらしてしまう。
「…」
「…」
「そ、そういえば俺達っていつまでここにいるんだ?」
俺はこの空気を換えるべく、少し真面目な話題を持ち出す。
「そう、ですね。海斗様が不在の間も勇者についての調査は行われていましたが、ここら辺の近くまで来
ていることと、勇者の一行が男女二人ずつの編成であること以外はなにも…。
あっ、ご、ごめん。つい仕事モードに」
話し始めたとたん、急にいつものサナさんになったかと思えば赤面し先程までのサナに戻る。そんな激しいギャップに思わずドキッとしてしまう。そんな心中を悟られないように平静を装いながら言葉を返す。
「いや、いいんだよ。俺がその話題を出したのがいけないんだし」
今の会話のおかげで雰囲気が少し和らぐ。
「でも、そういうことならまだしばらくはここにお世話になるって感じか」
「そうね」
そう言葉を返した後、またもや顔を背け、今度は先ほどよりも顔を紅潮させながらこちらをチラチラと目で見てくるサナ。そして、なにやら手をモジモジとし普段とはかけ離れた様子に少し心配になり声をかける。
「どうかした?」
すると、何かを決心したようにこちらをグッと向くと。
「いいえ、その…。と、隣に行ってもいい、かな…?」
「え、あ、うん。いい、けど」
俺はいきなりそんなことを言われたので、思わず挙動がおかしくなってしまった。
(だってしょうがないじゃん! さなみたいな綺麗な人にさ、少し赤らめた顔をしてなおかつ、上目づかいでそんなこと言われたら、童貞の俺が耐えられるわけないやん)
そんな自分がただ恥ずかしくなるだけなことを思っていると、いつのまにかサナが隣へと座ってくる。しかし…。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




