第二章 王国編 エピローグ(2)
その後、エリスとルーシーによる調印式が改めて行われた。これにより、世界で初めて魔王国と人間側の国が条約を交わしたのだった。
演説の後、やはり賛同することができないと言ったような人たちが城に押しかけてきたが、エリスが直接一人一人丁寧に対応し、それ以降は目立った反対運動はなかった。
「それにしてもよく国民の方々はすんなりと受け入れくださいましたわね」
椅子が空いているにもかかわらず、何故か俺のすぐ後ろに立っているスフィアがそう口にする。
「いや、皆もたやすくは受け入れられなかっただろうさ。だが、みんなもうこの終わりの見えない戦いに
疲れていたというのはあるかもしれんな」
そういうと、目の前のお皿からクッキーのようなものを一つ掴み口に入れる。
「でも、これで無駄に命を落とす人たちがいなくなりますわね、お姉様」
エリスに対し崇拝にも感じる眼差しを送りながらアリスがそう口にする。ちなみに、今のアリスは人前であるために完全にお嬢様モードになっている。
「そう上手くいかんかもそれんぞ」
ルーシーのその言葉に、俺たちは首をかしげる。正確には俺とアリスだけだった。残りの二人はルーシーが何を言おうとしているのかわかっているようだった。
「だろうな。これからはほかの人間の国を警戒する必要があるだろうな」
「どういうことですか、お姉さま…」
今まで味方だと思っていた者たちを、今度は敵と認識しなくてはいけないというわけのわからない説明に、アリスが詰問する。
「この国は魔王国のすぐ近くにあることからあまり影響はないが、人間の世界で一番力を持っている者た
ちというのは…」
「教会か」
俺は自然とそんなことを口にしていた。
「そうだ。教会は神とやらを信じており、魔族は根絶やしにすべしと考える集団だ。そんな奴らが、魔王国と友好を結んだ私たちを見逃すわけがあるまい」
「そんな…」
その事実がよっぽど衝撃だったのか、言葉を失うアリス。
「まぁ、教会もそんなにすぐ動けるわけではない。勇者にさえ気を付けていれば今はまだそこまで気にすることではない。だから、そんな顔をしないでくれアリス」
そういいながら、アリスの手に自分の手を重ねる。すると、アリスも少し落ち着いたのか顔色が戻ったように見えた。
「エリスお姉ちゃん…」
部屋が二人によって、何とも和やかな雰囲気に包まれる。
久しぶりの姉妹の団らんに水を差すのも悪いと考えた俺たちはそっと部屋を出ようとしたのだが…。
「待て、海斗」
いきなりエリスが俺のことを呼び止め、衝撃の言葉を口にする。
――― 式の日取りの相談をしたいので、すこし待っていてくれ ―――
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




