第一章 動きだす世界(3)
ゾヴィーア大国・要塞都市タバタの一室
「まずはよくやったといってやるのじゃ」
「あぁ、ありがとう」
戦場から戻った俺は今、要塞にある客間のような部屋にルーシーと一緒にいる。部屋の真ん中に木製のテーブルをはさんで対面にソファーに座っている。セバスさんは部屋のドアの近くに待機している。
「それで、なんじゃったんだ? あれは」
そういいながら体を乗り出して聞いてくるルーシー。
「お、俺もよくわかんねぇんだよ。剣をバッて思いっきり振ったらいきなり目の前のすべてが吹き飛んでいて…」
「そうなのか。だが、話を聞くに、あれは魔力のこもった斬撃を放出したんじゃと思うぞ」
「魔力の、斬撃?」
俺は頭の上にハテナマークを浮かべる。
「そうじゃ。あの時、とても大きな魔力の反応を感じたからの」
そういって、魔法の推測を立てていく。
「お主はその時、何か感じたかの」
「んー。しいて言えば、あの痕跡をみて竜巻のようなイメージを持ったかな」
「ほう。もしかすると、お主が使ったのはソード・ソニックという中級魔術やもしれん」
説明によるとこうだ。風魔法の一種で、剣を振るうとソニックブームが起き斬撃となった衝撃波がダメージを与えるものだそうだ。
「でも、あれで中級魔術なのか? そしたら上級はどんだけなんだ?」
俺がそんな質問をすると、彼女は首を横に振る。
「あれは特別じゃ。普通はあんな大規模な者にはならん。せいぜい二・三人を屠れる程度のものじゃ」
「じゃ、なんで」
「魔法というのはの、祖奴が練りこむ魔力によって威力が決まってくる。つまり、そういうことじゃ」
(なるほど。たとえ、初球の魔術を行使したとしても魔力の量によってはそれ以上の力を出せるってことか)
「じゃあ。魔王のルーシーもあれは使えるのか?」
「あたりまえじゃ」
そういって腕を組みながら得意げに寂しい胸を張る。だが、「しかしのぉ」と疑問を口にする。
「初めにあった時もそうじゃが、今も大した魔力を感じぬのじゃがどういうことかのぉ」
そういって、まじまじと俺を頭から下までなんども目を往復し観察してくる。そして、セバスさんのほうを向き意見を求める。
「恐れながら、わたくしも普通の人族くらいにしか感じませぬ」
それを聞き、一呼吸着くとソファーに座りなおす。
「まぁ、とりあえずそのことについては後でよかろう。とにかく、海斗よ。お前はこれからは儂といつも
行動するようにせい」
「はぁ?」
俺はまたもや腑抜けた声を漏らす。
「当たり前じゃろう。主は儂に召喚されたものなのだから儂に付き従うのは当然じゃ。それに、手の甲を見てみよ」
俺は指を刺された右手の甲に目をやる。するとそこには、先ほどまでなかった小さな魔方陣が浮かび上がりかすかに赤い光を放っていた。
「これは…」
「召喚獣の証じゃ。それがある限りは儂の命令には逆らえんからの、留意しておくがよいぞ」
しばらくすると、その魔方陣は消え何もなくなっていた。
「普段はそうやって、隠しておけるから気にせんでもええぞ。それと、もし自分が望めば出現させることもできるぞ」
俺はそれを聞き一安心する。
(もし、ほかの奴に見られたらどう思われるか分からんしな)
その後は、魔法についてと、今回の相手について話をしてお開きとなった。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。