第二章 王国篇 (16)
ルーシーのけたたましい叫びが頭に響いてた。
『おい、耳が壊れるだろ』
(耳で聞いてないけど…)
頭を押さえながらそう言葉を返す俺に対し、ものすごく焦った様子で言葉をつづけるルーシー。
『どういうことじゃ、捕まったのか』
『いや、そういうわk』
『待って居るがよい。今すぐ全軍で攻めこんでやるのじゃ』
(俺が人間界にいるってだけでとんでもないことにっ?)
俺の返事も聞かず俺が敵国に捕まっていると思い込んでいるルーシーはそんなとんでもないことを言い始めた。
『だから違うって、聞いてくれ』
『なんじゃ、儂がここまで心配しとるというのに』
『俺は捕まってもないし、危険な状態でもないから』
『…そうなのか』
そこでようやく落ち着きを取り戻した声が聞こえてきた。
『あぁ』
『そうならそうとなぜ早く言わんのじゃ』
『ずっと言おうとしてたのをお前が早とちりしたんだよ』
そこまで言って、俺はこれまで何があったのかと今の状況を伝えていった。
話している途中、「な、うらやまs」とか「なんとずr」などと意味の分からないことを言っていたが、気にしなくていいだろう。
『…というわけなんだ』
『人間も大変なんじゃの』
ちなみに、この国の王女の一人に正体がばれたことも話したのだがそれほどきにしてもいないようだっ
た。
理由を聞いたが、別にそこに住むわけじゃないのだからばらされてもいいだろう見たいな感じだった。
それを聞き、俺は結構考えなしだったことに気が付かされるのと同時に、帰る場所があることにとてつもない安心感と嬉しさがこみあげてきた。
『それで、お主はこの後どうするのじゃ』
『…』
俺はその質問に即答することができなかった。
正直に言うと、あの二人にはもう情というものがわいてしまっている。加えて、エリスとは何日間もともに夜とご飯を共にした中である。これで情を抱くなというほうが無理な話だ。
しかし、これ以上ルーシー達に心配をかけるわけにも行かない。ましてやここは魔王国の敵国内である。それに、俺はエリスに嘘をついている。そんな俺が本当にこんなことをしてもいいのかと考えてしまう…。
そんな風に堂々巡りしていると、ルーシーが俺の名前を呼んだ。
『海斗よ。お前が考えていることはだいたいわかる。儂らの事や、その狙われている王女に悪いとか考えておるのじゃろ』
『なっ』
俺の心を完全に見透かしたような発言に、驚嘆の声を漏らしてしまう。
『やはりな』
ルーシーは「ふぅ」と一息吐くと、畳みかけるように言った。
『海斗、逃げるな』
『はっ? 意味がわからねぇよ』
いきなりのその発言に思わずけんか腰な言葉になってしまう。だが、そんなもの関係ないといったように続ける。
『いや、お主は分かっておるはずじゃ。なぜならお主の心の中ではどうしたいか決まっておる。だが、今お主はいろいろと考えておる。それはなぜか。それは、お主が一歩踏み出すことから逃げておるから
じゃ』
『俺が、逃げてる…』
『そうじゃ。お主の本音は、もし失敗したらどうしようか、もし自分の正体がばれたらどうしようか、そうやって不確定なことに怯え、我を、我らを理由に決断していることから逃げているだけじゃ』
その言葉に、俺は頭をぶん殴られたかのような衝撃を受けた。
そして、俺は前世の高校時代のことを思い出していた…。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




