第二章 王国篇 (11)
「や、やったわ」
「やったわじゃねーよ」
俺は突き刺さったナイフを抜き捨てながらそうこぼす。
「な、なんで」
「ただ、回復魔法を使っただけだ」
隠すつもりないのですぐにネタばらししてやる。
すると、武器も失い勝ち目がないと悟ったのかその場に膝から崩れ落ち、へたり込んでしまった。
「あぁ、私はここで死ぬのね。どうせ死ぬなら、お姉ちゃんに殺されたかった」
「いや、だから殺さねえよ」
この後、同じことを何十回も繰り返した。
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「ふん、まぁこのことは黙っといてあげるわ」
さっきまでの怯えていた様子とは打って変わり、そんなことを言うアリス。
「あぁ、そうしてくれると助かる」
だが、世の中そんなに都合はよく動いてくれない。
「ただし、お姉ちゃんを助けてくれたらの話」
これである…。
俺は溜息をこぼしたいのをこらえながら、ふと浮かんだ疑問をぶつける。
「姉を助ける?」
「そう言ってるでしょ」
「だって、もう城の中なんだから安全なんじゃないのか」
俺がそう言うと、アリスは表情を険しくする。
「その逆よ」
「逆?」
(どう言うことだ)
俺が訝しげな顔をしていると、それに気がついたアリスが付け足す。
「今、この国の王様、私たちのお父様が長くはないのは聞いたでしょ」
「おう」
「そうすると、次の王は男がうちの家系には居ないからお姉ちゃんなの。でも、お姉ちゃんはあの性格だ
から不正をたくさんしている大臣連中がよく思っていない」
「だから、殺して二番目にお前に家督を継がせようってことか」
「そう、私は国とか王とか、政治とかどうでもいいし。お姉ちゃんと一緒に入れれば…」
そこまで言うと下を向いてしまうアリス。
アリスは本当に姉のことが好きなんだろう。俺には二人の過去なんて知る余地もないがそれだけはとても伝わってきた。
そして、そんな彼女をほっとけないと思う自分自身を本当にお人好しだなと思ってしまう。
「わかった、協力してやるからお前も手伝えよ」
そう言うと、一瞬嬉しそうに表情を緩めるがすぐに引き締め直す。
「当たり前でしょ。それと、少しでも変な真似したらあんたのことバラすから」
「わかってるよ」
話がひと段落ついたので、部屋にあったソファーに対面した形で腰を下ろす。
「それにしても、これからどうするのあんた」
「どうするって、また隠せばいいんじゃないか」
そこまで言うと、アリスは「はぁ」とため息を一つこぼす。
「あんたバカね」
「は、何でそうなる」
「だって、この城には隠蔽などができないような結界が張られているのよ。そんなことできるわけないじゃない」
「な、に…」
俺は愕然とした表情でアリスを見る。
「あんた本当に何も知らなかったのね」
あきれたといった態度で首を横に降るアリス。
「すまん」
「はぁ」
すると、アリスが自分の手を差し出してくる。
どういうことかわからなかった俺は、疑問符を頭に浮かべながらその手を凝視した。
「何してるの。早く手出して」
未だどう言うことかわからないがとりあえず言われた通りにしてみる。
アリスは俺の手を取ると、どこからか出した包帯を俺の右手に巻きつけていく。
「お、おい」
「べつにあんたのためじゃないわ。お姉ちゃんを助けるには必要だからしてるだけなんだから、勘違いす
るんじゃないわよ」
「いや、別にしねーけどよ」
だが俺は、そんな態度ながらも丁寧に包帯を巻いてくれるアリス。そんなアリスの姿に、心の奥底にはとてもやさしい心がある子なんだと思うのだった。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




