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第二章 王国篇 (4)


『パチパチッ』


 あたりもすっかり暗くなり、焚火の火だけがあたりを明るく照らしている。その周りには、櫛に刺さった肉が地面につき立ち香ばしいにおいを出している。

 俺はその焚火に薪を入れ、火力を調整する。

 季節的には春過ぎくらい(五・六月)くらいらしく昼は暖かいのだが、やはり夜になると気温が下がり肌寒い。


 加えて、明りのないこの世界で火は大事な光源である。故に、焚火は必要不可欠だ。

 しばらく肉を見ながら焚火を眺めていると、後ろから物音がするので振り返ってみると先ほどの女性が

目を覚まし、テントからこちらに出てきた。


「その、この度は助けていただき感謝する」


 そういって頭を下げる。


「別に気にしないでください。たまたま通りかかっただけなので」


 俺はそういって座るよう勧める。


 彼女は俺の反対側に座ると、焚火に手をかざし暖をとる。


「それで、なんでこんなところにいたんですか? 失礼だとは思いますがここはそれなりの魔獣が出るんであなたのような方が来るのはよくわからないんですが」


 俺は相手が人間なので魔族側の者と悟られないように隠しつつ質問をする。


「私はその、少しあそこにいた男たちに追われており、それでとにかく逃げていたらあんなことに…」


「なるほど」


 それを相槌をうちながら焼けた櫛を渡し、俺も一本櫛を抜き取ると何の魔獣かわからないが香ばしい香りを放つ肉をほおばった。


(悪くない)


 そしてもう一口かじりつき、ふと彼女の方を見ると、まだ肉を見つめたまま一口も食べていなかった。


「肉苦手でしたか」


「あ、いや。そういうわけではないのだが、その。どうやって食べたらいいのだろうか」


「へっ、えっと。そのままかぶりつけばいいのでは」


「そのまま、か」


 彼女はしばし肉を見つめた後、思いっきり真ん中あたりにかぶりついた。


「これは、うまいな」


「そうか、よかった」


(しかし、こういう食べ方をしたことがなかったような言い方だったな。もしかして身分の高い人なのだろうか。というか、名前も聞いてなくね)


 そう考えた俺は、先ほどまでのおしとやかさが欠けている彼女に質問する。


「あのさ」


「む、なんだ」


「いや、君の名前とかまだ聞いてなかったなと思って」


「そうだったな。えっと、エリとでも呼んでくれ」


 そういうと、再び肉にかぶりついた。


「わかった。俺は海斗だ」


「じゃあ、エリ。このあとどうするんだ?」


「とにかく、国まで帰りこの事態に対処する」


 そういって、櫛に残っていた肉を一口で口に含む。


「そっか。じゃあ、とりあえずそこまでは送っていくよ」


(人間の国も行ってみたいしな)


「そうか、それは助かる。もちろん礼はさせてもらおう」


「いや、いいよ。俺も人間の国に行ってみたかったし」


「ん? 海斗は人間だろ」


 俺は自分の失言に少しうろたえるが何とか取り繕う。


「いや、ちょっと山奥で暮らしていたからさ」


「そうなのか」


 俺の話を聞き少し微妙な顔をしたが、何とか納得してくれたようだ。


「じゃあ、俺は見張ってるんでテントの中で寝てていいですよ。まぁ、見知らぬひとが近くにいたら安心

して寝れないと思いますが」


「いや、もし海斗が何かしようとしていたのなら、そのチャンスはいくらでもあったはず。加えて、助け

てもらった恩人に対しそのように思うのは失礼というものだ」


「そ、そうか」


 まっすぐに言われて、ちょっと恥ずかしくなり、俺は新に薪を入れた。

 しばらくして、「では、すまないが休ませていただく」といってテントの中に入っていった。

 俺は焚火の火を見ながら夜を越したのだった。


『がぁぁぁぁぁ、ぐわぁぁぁぁあ』


「いびきうるさっ」





最後まで読んでいただけるだけで感謝です。


前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。

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