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第一章 動きだす世界(19)


「ぐぅぅぅぅぅ」 


 あちこちから漂うとても美味しそうな料理の匂いにあてられルーシーのおなかの虫がうずく。


「どれもうまそうなのじゃ」


 目を輝かせながら通りに出ている露店に目をやりながら歩いていくルーシー。

 俺とスフィアはその後に並んで続く。


「結構普通なんだな」


「普通ですか?」


 俺がこぼした言葉にスフィアが反応する。


「あ、あぁ。人間のところと同じ感じなんだなぁって」


 それを聞き、首をかしげるスフィア。


「人間界に行ったことがおありで」


「あ。いや。前世のな」


 すると目を見開くスフィア。慌てて周りを見る。そして、顔を近づけながら小声で話しかけてくる。


「つ、つまり。転生者ってことですよね」


「まぁ、召喚獣として召喚された身だけどな」


「…」


「失礼ながら、ご主人様。それ本当のことでございますか」


「あぁ」


「そ、そうですか」


 そういうとスフィアは黙りこむ。すこしの間考えこんだ後口を開く。


「ご主人様。このことはできるだけ口外しないほうが良いかと思います。いろいろと面倒なことになると

思われるので」


 「そうか」と答え、「でも」と続ける


「お前ならいいかなと思ったから言ったんだ。短い間しか関わってないけどお前は悪い奴じゃない。それに、ルーシーも信用しているようだしな」


 そういい終わりスフィアをみるとなにやら目を輝かせてこちらを見ていた。


「つまり、私を妻として信頼なさっていただいているということですね」


 顔をずいっとこちらに寄せてくるスフィア。

 俺は一歩さがりながら否定する。


「い、いや。そういうことでは…」


「…」


 そういうと明らかに落ち込むスフィア。


「あ、いや。えぇーっと。そうだ! 信頼してるぞ」


 どうしたらいいか悩んだ結果。結局何も浮かばず、気が付いたらそんなことを口走っていた。

 だが、スフィアはニパァっと花を咲かせ「うれしいです」とほほ笑んだ。


(多分、俺はまた自分で墓穴を掘ったんだろうな)


 「はぁ」とため息をつくと、声がかかる。


「どうしたんじゃ、海斗よ」


 そうこちらに歩いてくるルーシーの手の中にはたくさんの食材があった。


「すごいな。お前」


「美味なのじゃ」はむはむ。


 料理をめいっぱい抱えたルーシーとともに再び歩き出す。

 俺とスフィアもいくらか買いながら道を歩く。

 そのとき、ルーシーが露店商から声をかけられる。


「そこのお嬢ちゃん。ちょっと見ていかないかい?」


「む、なんじゃ」


 ルーシーに続き、店先に並べてある商品に目を向ける。

 長方形の机の上に赤や白、緑といったような色とりどりの糸を使い編み物のように幾何学模様が描かれた、三角形やひし形の首飾りが並んでいた。


(そういえばロシアの方の伝統品でゾルタンだかバルタンだかそんなのがあった気がする)


 店主が俺とスフィアの存在に気が付く。


「お父さんとお母さん、娘さんにこんなのはいかがですか」 


 その言葉を聞いたみんなの反応は三者三様だった。

 ルーシーは「誰が娘じゃ誰がッ」と騒ぎ。スフィアは「お、お母さんだなんて。もう、照れてしまいますわ」と自分の世界に入り。俺は「そんなんじゃないですよぉ」と苦笑いしながら店主に対応した。


 とりあえずルーシーの機嫌を抑えるためにひし形で、周りは黒で縁取られ、ベースが白色のなっており、黄色で形が描かれているものだ。


「まぁ。今回はこれで勘弁してやるのだ」


「あぁ、ありがとよ」


 俺は店主に金を渡し、それをルーシーに差し出す。

 するとルーシーは黙ったまま俺に正対してくる。

 俺が頭にハテナマークを浮かべているとスフィアが耳打ちしてくれる。


「ルーシー様はご主人様に付けていただきたいんですよ」


(あぁ、そういうことか)


 俺は首飾りの留め具を外すとルーシーの髪をかき分けながら腕を背中に回す。すると必然的にルーシーと顔の距離がとても近くなる。


 息遣いをすぐ近くに感じる。


 俺とルーシーはそのまま見つめ合ってしまう。


 頬を紅く染めるルーシー。


「っ…」


「…」


 その距離が徐々に縮まっていく。

 羞恥に耐えかねたルーシーが目を閉じる。


 そして…。


「あのぉ、ご主人様」


 スフィアが肩に手を置かれたことで我に返る。


「あんまりこういう場所でそういうことは…」


 そういわれ周りを見ると、ある人は軽蔑をするような、ある人は汚物を見るような、そしてある人は鼻息を荒くしながらこちらを見ていた。


「あ、いや…」


 俺は首飾りをルーシーに付けるのを一旦やめると、急いでもう一つ別の柄の首飾りを買うとすぐに二人を連れてその場を後にした。


 その時、ルーシーは恥ずかしさからかほとんど気を失っていたので抱きかかえて走った。




最後まで読んでいただけるだけで感謝です。


前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。

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