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第一章 動きだす世界(18)

その日、ルーシーはニヤニヤ顔のスフィアと一緒に部屋に入ってきた。

 憔悴していた二人の姿を見て、俺はもしかして終わりかもしれない、などと考えていた。

 しかし、俺に近づいてきたルーシーは俺の拘束具を外し始めた。驚いている俺をよそに、拘束具を外したルーシーはスフィアから何か耳打ちをされている。

 そして、頬を赤く染め。


「お、お主は儂の大切なものじゃからの。これぐらいで許してやるのじゃ」


 そういうとプイっと顔をそらしてしまう。


「可愛い」ボソッ。


 その時の俺は疲れ切っていたからか、ともかく何かおかしかったのだろう。


「なっ」 


 それを聞いたルーシーはどんどん顔が赤くなっていく。

 そして、全身真っ赤にすると俺の顔面に拳が飛んできた。

 目を覚ますと俺はソファーの上で横になっていた。ルーシーに膝枕をされて。顔を真っ赤にして恥ずかしながら。


「な、何してるんだ」


 俺が起きたことに気が付くと顔を背けてしまう。


(なんだか俺も早くここから逃れたい…。主にこの五日間の事のせいで)


 俺が恐怖心に耐えながらルーシーの言葉を待っていると、おもむろに口を開くルーシー。


「べ、別に好きでやっとるわけじゃないのじゃぞ。その、儂も少しやりすぎてしまったと思うての。す、少しばかしご褒美をよこしてやってもよいと思うたまでじゃ」 


「そ、そうか」 


「儂は魔王じゃからな。寛大な心を持っておるのじゃ」


(あ、あんなことをしといて…。寛大な心とは)


 俺は悪寒を感じながらも、少しいつも道理に戻ったルーシーに問いかける。


「それで、これは?」


「む、これか。これはスフィアがこれをするといいといっておったからしたまでじゃ」


 それを聞き、俺は周りに視線をめぐらす。そして、よく見ると部屋のドアが少しだけ空いており。そこからスフィアがこちらを覗いていた。


 とても楽しそうに…。


(あとで説教だな)


 すると突然、ルーシーが俺の頭を撫でてきた。

 驚き、ルーシーを見る。その行動を見て、慌てて手を離すルーシー。


「あ、すまぬ。つい、撫でたくなってしまったのじゃ」


「い、いや。別に構わないけど」


 俺がそういうと再び頭に手を乗せ撫でてきた。


(なんだか照れ臭くなってきた)


 何もされないと安心したからか、この五日間の生活とのギャップもありとても和んでくる。

 そして、だんだんと眠気が強くなりもう一度眠りの世界へといざなわれるのであった。





 とにかくそんな感じで俺は地獄の日々から解放されたのだ。


(まぁ。なんであんなに怒っていたかはあんまり理解してないんだけど…)


 俺は前を歩くルーシーを見ながら心の中でひとり呟く。


「あの、旦那様。本当に大丈夫なのでしょうか」


 そう口にするのは、隣を歩くスフィアだ。


 「旦那様」と呼ぶのはやめてくれといったのだが、聞いてくれない。そして、なぜかルーシーがそれを容認している。


「まぁ、外では外套被るし」


「いえ、ルーシー様の性格上…」


「あぁ」


(少しでも気に入らないことがあると、すぐ怒り出すからな)


 なぜこのような会話をしているかというと、俺たちは今、城下町へと向かっているからだ。

 戦いが終わった後、国では戦勝祝いとしてお祭り騒ぎだったのだがルーシーは寝込んでおり、その後も事後処理などでまったく参加できていなかった。


 俺は言わずもがなである。


 そんなわけで、駄々をこねた魔王様のために俺たちはお忍びで城下町へと向かうことにしたのだ。


「何を話しておるのじゃ。はよせんか」


 お忍びということをちゃんとわかっているのか、うきうきのルーシーと一緒に魔王城を出るのだった。





最後まで読んでいただけるだけで感謝です。


前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。

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