第一章 動きだす世界(17)
「説明してもらおうかのう、海斗。それに、旦那様とかなんとか言っとたなぁ」
先ほどまで、ベッドで上半身だけを起こしていたルーシーだったが、今はベッドの上で腕を組みながら仁王立ちしている。
「いや、それは誤解で…。こいつが勝手に言ってるだけというか…」
「ほう?」
俺の言葉にそう返しながらスフィアに目で確認をとっている。
(頼む。余計なことを言わないでくれ)
俺は横目でサインを送る。
それを見たスフィアは自信満々という感じの顔を作る。
(よしよし)
俺は少し安堵しながら待つ。
「私は正真正銘海斗様の妻ですわ」
俺は固まった…。
「さて、覚悟はいいかの? 海斗よ。儂が生死をさまよっておった時に、まさかあいびきをしておったと
わのぉ」
そういいながら徐々に近づいてくる。
「ま、待てルーシー。本当にこいつと俺はなんでもないんだって。頼むからお前もなにか言ってくれ、って、いない?」
俺がついにスフィアに助けを求めようとするが、既に俺から離れ部屋を出て行こうとしていた。
「おい、スフィア」
その時、ものすごい殺気を近くで感じる。
俺は、ゆっくり、ゆっくりと顔を戻す。
「こんな時によそ見とは、いい度胸じゃのう。おっ?」
「い、いや。そ、それはわるいって。ね。だからルーシーさん? いや、やめて。る…。」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁxx」
その日、海斗の姿を見た者はいなかった。
そして、さらに一週間が過ぎた。この間に事後処理もほとんど終わっていた。
今回の戦いに敗れ、海斗が新たに魔王となったティグロフスキア国はゾヴィーア大国に併合された。ただし、急に一国すべてを融合させるわけにはいかないのでしばらくの間は自治区とすることで話がまとまった。
名は国名をそのまま使い、ティグロフスキア自治区である。
一応、ここのトップは形式上俺となっている。
ちなみに今、俺たちは首都メリアにある魔王城におり。俺はもちろんルーシーと同じ部屋で寝泊まりをしている。
このもちろんというのはこの間の件の罰である。壁に貼り付けられ立ったまま寝させられたり、食事はあいつの食べ残ししかもらえなかったり。その他にもいろいろと…。
(うっ。なんか、記憶が…。頭が…)
「大丈夫ですか?」
俺が城の廊下の壁に頭を押さえながらもたれかかっていると、後ろから声がかかる。
「あ、あぁ。ちょっと頭痛がしただけだ」
スフィアは俺を気遣うように俺の顔をのぞき込んでくる。
「そうですか。あまり無理なさらないでくださいね」
「あ、ありがとう」
あの後、部屋から逃げ出したスフィアだったがルーシーが俺から離れた時を見計らい何事もなかったように戻ってきた。
そして、なぜかルーシーとスフィアの仲が良くなっている。
(ホント、何があったんだよ)
「スフィア、祖奴など放っておけ」
すると、スフィアはルーシーの耳に口を近づけ何か伝えている。
「ダメですよルーシー様。素直にならないと誰かに取られちゃいますよ?」
「お主がそれを言うのか」
スフィアは「あはは」と苦笑いしながらルーシーから離れる。どうやら、話は終わったようだ。
様子が変わったのは、ルーシーの罰が始まってから五日目の事だった。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




