第一章 動きだす世界(16)
その後、スフィアは一旦国の指揮を執るためにティグロフスキアへと戻った。戦場はというと、俺が魔王ゴールトンを討ち取った報が既に流れており、勝負は決していた。
そして今、俺は部屋に戻りベッドで横になっているルーシーと一緒にいる。
寝ているルーシーを抱きかかえながら砦に戻ってきたときは大騒ぎになったが、それはまた別の話だ。
ちなみにセバスさんは気絶しそうになっていた。
「…」
静かに寝息を立てているルーシー。あの戦いから丸二日立っているが、まだ目覚めていない。
一度は死の淵をさまよったのだ。いくら回復魔法をかけたといっても、限界があるのだろう。
「ルーシー…」
俺は頭を静かに撫でながら呼びかける。
「ん…」
その時、わずかにルーシーが声を上げた。
俺は椅子から立ち上がりながら名前を呼ぶ。
「ルーシー!」
「んん、なんじゃ。朝からうるさいのじゃ」
ルーシーは眠たそうに眼をこすりながら体を起こす。
その時には俺はもう既にルーシーを抱きしめていた。ここにちゃんと存在するのだと確かめるように。
「な、なんじゃ。いきなり」
「よかった。死ななくてよかった…」
そこで彼女はな無理に着く前のことを思い出し、今の状況に赤面する。
「わわ、分かったから。離れるのじゃ」
俺は名残惜しみながらもルーシーを解放する。
ルーシーは「ふぅ」と一息つくと、自分が倒れた後のことを聞いてくる。
「彼奴はお主が倒したのか?」
「一応」
その言葉を聞き「そうか」と一言言うと何かを考えるように黙り込む。
数分たち、覚悟の決まったような顔をし俺の方に向きながら言葉を紡ぐ。
「海斗。お主に伝えたいことがあるのじゃ」
俺は何のことかわからないながらも、ルーシーの表情を見て何やら大切なことなのだと思いルーシーの言葉を待つ。
「その、儂はの、お主のことを、その嫌いではないと言うかの…」
ルーシーはいつものようにはっきりとした口調ではなく、おどおどとして口ごもっってしまう。
俺はそのことが逆にこれから話すことが大変なことなのだろうと考えを巡らす。
そして、ついに覚悟を決めたのかグッと俺に強い視線を送ってくる。
「海斗よ。儂はお主のことが…」
そこで合間が空く。俺は続きを待つ。
息を飲む。
そして…。
――― 旦那さまぁぁぁぁぁぁぁ ―――
スフィアが部屋へと飛び込んできた。
部屋に入ってきたスフィアは勢いそのまま俺に抱きついてきた。
「寂しかったです、旦那さまぁ」
「お、おい。なんでここにいんだよ。国の統制を頼んだはずだろ?」
俺はいきなりの状況に困惑しながらも、スフィアに尋ねる。
「それは大丈夫です。しっかり私の妹分に引き継いできっましたから」
「そうなのか」
俺はそのこと聞き安堵する。
しかし、そこで俺はあることを思い出す。
「ずいぶん仲がいいようじゃのぉ」
俺はゆっくりと声のお主の方へ顔を向ける。
そして、そこには満面の笑みをしながらものすごいさっきを出しているルーシーがいた。
(あ、これ死んだわ)
つづく・・・
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




