第五編 聖都決戦編 第二章 獣の国(15)
部屋の中央付近まで行き、しばらくしないうちに注目は別のところに移動することとなる。
前方から響くドアの開く、重たい音。
そして、美しく着飾った二人の女性が姿を現した。
ドレスをまとった二人は、身長に差があるものの、それを感じさせないほどの雰囲気が二人に、ルーシーにあった。
「っ…」
それを見た瞬間に、息を呑むサナ。
それは、サナだけでなく周りにいた者たちも同じで、何とも言えぬ静寂が部屋全体を包み込んだ。
ステージの中心のところまで行くと、二人が並んで立ち止まる。
「皆の者、今宵はよく集まってくれた。長い挨拶をしてしまうと興も覚めてしまうだろうから、短
く行こう。では、まず魔王国魔王、ルーシー・ソフィリア殿」
「うむ。此度は盛大な歓迎を感謝しよう。これからも、良き同盟国として共に歩みを進めよう」
「ありがとう。では、挨拶はこの辺にして、今宵は大いに楽しんでくれたまえ」
そう言うと、どこからともなく用意された杯を手にする。それに合わせたように、参列する者たちもそれに続く。
「乾杯」
そして、エリスのその掛け声で、静寂はダムが決壊したかのように崩れた。
少しおいてから、二人のもとへは順々に高い位の人から挨拶に向かっていた。それは、サナ達も例外ではないわけで、多くの者がアリス、スフィア、サナのもとへとあいさつに来る。
しかし。いや、やはりというべきか、スフィアとサナにはいろいろな感情を含んだ目線が向けられた。
途中、サナに余計に声をかける貴族がいたが、アリスがそれを制止し事なきを得た。
「ふぅ」
しばらくして、いろいろと疲れてしまったサナは、アリスに勧められテラスへと出て休んでいた。
会場の方に目を向けると、ルーシーやエリス、アリス、スフィアの四人はいろいろな貴族に声をかけられ、または声をかけて、落ち着いた雰囲気をもといながらもせわしなくしていた。
再び外に向き直る。
「何とか山場を乗り越えることはできた。あとは、適当に時間が過ぎるのを待っているだけ」
そう思い、気持ちを切り替えようと大きく深呼吸をした時だった。
何者かが近づく気配を感じ、咄嗟に振り返る。
「あ、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら」
振り返った先には、どこかの貴族の婦人であろう人が微笑をうかべながら立っていた。
「隣よろしいですか」
「は、はい…」
いきなりそう言って、横に並ぶ彼女。サナは困惑を隠しきれなかった。
「あの、あなたは?」
「失礼。私は、クリスティーナと申します。そうね、今ちょうど王女様と話されている方の妻です」
言われて会場の方に目をやると、金髪にすらっとした体系の中年くらいの男性がエリスとルーシーと話をしていた。
ただ、サナの目が惹かれたのはその男性の周りにいる複数の女性たちであった。
その男性と女性たちの距離感が物理的にも、その他の部分でも近いように感じた。だが、今、サナの目の前にいる彼女は彼の妻だと名乗った。
サナは心の中に疑問符をうかべていたが、どうやら顔に出ていたらしく、その答えをすぐに教えてくれた。
「おそらく、考えていることは正しいですよ。彼女たちも私と同じあの方の妻です」
「つまり、その。多妻ということでしょうか?」
「はい」
婦人はそう言いながら頷く。
「えっと、サナ様でよろしかったですか」
サナはそこで自分から名乗っていないことに気がつき、慌てて
「あ、はい! すみません、サナです」
そういって頭をさげてしまう。しかし、先ほどの態度から自分の方が身分の高い方だと思い出したサナは、またまた慌てて頭を上げる。
そんな様子を微笑ましく見ていたクリスティーナ。
「少し、お話しませんか?」
二人はテラスを移動し、そこにあった椅子に腰を掛けた。
新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
そして、更新が遅くなっていること度々お詫び申し上げます。只今、夏にある試験に向け、勉強またはそれに関する事象があるため、今後も遅くなる見込みとなっております。
本作をお読みいただいている皆様には、大変申し訳なく思っておりますが、どうかご自愛くださいませ。
では、今回も最後までお読みいただきありがとうございました。