第五編 聖都決戦編 第二章 獣の国(14)
自室へと戻ったアリスは、先程までの自分を思い返し自責の念に駆られていた。
「あぁ、もうなんであたしは何も言えなかったのよ!」
海斗との接吻。アリスはあの日以来、時と共に大きくなっていく罪悪感に気持ちが耐えることが出来ずにいた。
なんとかして、謝らなければ…。
そう思う反面、本当にそんなことをするべきなのかという気持ちもあった。
このまま、私が黙っていればサナさんはなにも知らないままですむ。海斗に迷惑をかけることもない。だから、このまま…。
いや、でも、あの海斗がずっとサナさんにあのことを黙っているとは思えない。
今は、ただ会うことが出来ないから伝わってないだけな訳で。そうなると、ずっと黙っていた方が悪手なのではなかろうか。
繰り返される自問自答。
同じ考えが何回も流れる。
だから、アリスは時間がどんどん流れていくことに気がつかなかった。
「ゴーン。ゴーン…」
時間を知らせる鐘が鳴る。
「あれ⁉」
鐘の音で我に返ったアリスは、そこで初めて時間が経過していたことに気が付く。
「サナさん達をよびに行かなきゃ」
アリスはメイドをよび、急いで服装を整えるとサナ達の部屋の方へ急いだ。
ドアを三回叩き、中からの返事を待ってドアを開ける。
「時間だけど、準備はできてる?」
「はい、私はいつでも大丈夫です」
「そう…。じゃあ、行きましょう」
特に会話することもなく、アリスが先を歩き、サナがその一歩後ろに続く。
部屋で待機する前に、思い切ったことは言ったものの、そこからどのように関係を発展させていったらよいのかわからず、何にも変えられずにいた。
途中、別室のスフィアを拾い、パーティー会場へと向かった。
「じゃあ、この扉の向こうが会場だから。会場には、もう人は集まってる。あと、いないのはお姉
さまとルーシー様のみになってるわ。じゃあ、いくよ」
そう言うと、アリスはサナとスフィアの両方に視線を送る。それに応えるように二人は頷き返す。
アリスの合図で、扉の前にいた二人の兵士が扉を開く。
徐々に開かれていく扉。
会場から漏れる光が大きくなっていくのと比例するように、サナの心の不安も大きくなっていく。
実は、ここまでのところまでは、極力サナと人間が会わないように配慮されていたため、鉢合わせることなどはなかった。
しかし、この扉の向こうには、多くの人間が待ち構えている。サナにとって、親の仇であり、トラウマ的種族であり、憎むべき相手。
それを考えると、思わず手が震える。
だが、その手が突然温かさに包まれる。
驚いきながら手の主を見ると、スフィアが震える手を握っていたのだ。
「大丈夫。何かあれば、私が力づくでとめますから」
「スフィア様…」
まだ、完全に元に戻ったといえる関係ではなかったが、サナは思わず胸が温かくなった。
ダメね、私ったら。ライバルに励まされるなんて。
ギュッと、もう大丈夫と応えるよに強く握り返すと、どちらともなく手を離す。
扉がすべて開かれる。
喧騒に満ちていた会場が、ほとんどの人が今は言ってきたサナ達に注目した。
思わず立ち止まって、逃げ出してしまいそうになる気持ちを抑え、何とかアリスの後にt続くサナ。
それでも、自分に向けられる様々視線、興味、関心、奇異、恐怖。しかし、歩みを止めることはなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。