第一章 動きだす世界(14)
『ぐぅぉ』
頭の中にルーシーのうめき声が流れてきた。
(い、今のはルーシーの声。それに今の…)
俺は、今の念話をどういうことかえを考える。
念話には、言葉だけでなくその人の感情も少なからず乗せており感じることができる。
そして今、俺はルーシーのうめき声とともに流れてきた感情は「苦しみ」と「痛み」だった。
気が付けば、念話からある程度の方向を推測し、俺は地面をけっていた。どうしようもなくこみあげてくる焦燥感を抱えながらただただ走り続けた。
走っている俺に気が付いた敵が何人も切りかかってきたが全部一撃で切り伏せた。
あの後、念話は一度も来ていないがそれは当然のことだった。あの時、ちょうどゴールトンの怒りが増したことにより、暴走した魔力がルーシーを縛り付ける魔方陣に干渉してしまったためほんの一瞬であったが魔力が戻っていただけだったのだ。
さらに言うと、蹴り飛ばされたルーシーも魔力が暴走し念話の魔法が勝手に作動し海斗に声が届いていたのだ。
つまりは偶然に偶然が重なったことによるものだったのだ。
「ルーシー…」
俺は自然と名前を呼んでいた。
だが、どう考えても間に合わない。
でも、時間がない気がする。なにか、取り返しのつかなくなるような。
ルーシーが傷だらけになった姿が頭によぎる。
今までにない以上の不安が全身をよぎる。
「ルーシー」
その時だった。
「かいと…」
俺の名を呼ぶ声がした。
いきなりあたりが真っ白に染まる。
そして、視界に映像が戻りだす。
その映像にうつっていたのは、傷だらけのルーシーとそれを踏み殺そうとするソールトンの姿だった。
俺は、脊髄反射で身体を動かし剣を突き出しながら駆けだした。
「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
勢いのままぶつかった俺は、そのまま男を吹き飛ばした。
そして、ルーシーに背中越しに振り返りながら言い放つ。
――― 大丈夫か、ルーシー ―――
俺は、もういちどルーシーを観察する。いつもの白くてきれいな肌は切り傷や土でよごれ、近くには血だまりができていた。起き上がらないのを見ると、骨を何本かいってしまっているのだろう。
「…」
(何だろうこの感情。ふつふつと湧き上がる…。守らなければ、ルーシーを。そして、ルーシーをこんな目に合わせた奴を決して許さない)
俺は先ほどからずっと俺がさしたところを抑えてうめき声をあげている男を睨みつける。
「おい、てめぇだな。ルーシーをこんなにしたのは」
「あぁぁぁぁ! なんだてめぇ、急に出てきて。俺を誰だかわかってんのかこらぁぁぁ」
拳に魔方陣を展開し一瞬で海斗の目の前に移動し振り下ろす。
だが、ゴールトンは衝撃を受ける。
「っ…」
なぜなら、その攻撃を俺はすんなりと体をそらしてかわしながらその拳を手首から切断していたから
だ。
「う、うわわわあああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁ」
ゴールトンはもう一方の手で傷口を抑える。が、すぐに冷静に戻るとその残ったほうの手でこぶしを握り突き出してくる。
「レインフォース・トリプル」
身体が勝手に反応し、今度は方から腕を切り落とした。
「おおおおおおおおおおおおおぉぉっぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおx」
ついに、膝をつき痛みに悶え始める。
俺はそれを冷めた目で見降ろす。
そして、もう一度ルーシーに目をやり視線を男に戻す。
剣を横に一閃した。
男の頭と胴が離れ、頭が地面に落ちた。
「…」
こうして、静かに戦いは終わりを告げた。
最後まで読んでいただけるだけで感謝です。
前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。




