第五編 聖都決戦編 第二章 獣の国(12)
時は流れ、二週間後…。
海斗の残り香が漂う部屋の中。サナは、メイドによりだんだんと着飾られていく。
サナが身に着けているドレスは、以前にサナの要望を取り入れて作られたオーダーメイドの者である。
「できました」
着付けをしてたメイドに声をかけられ、サナは鏡の前に立つ。
黒を基調とした、足首まで隠れたドレス。所々には煌びやかな鉱石が小さいながらちりばめられており、派手さはなくとも存在感は消えないといったような印象である。そして、おそらく海斗が彼女を見ていたならば、惹かれていただろうサナの大きく成長した一部。
サナの要望で布面積は多めにし、比較的隠してはいるものの、それでもその圧力は隠しきれずに、逆に色気を醸し出していた。
自分の姿を目にしたサナは思はず息を呑む。
「キレイね…。まるで、私が私じゃないみたい」
今まで、メイドとして、その前は一村人だったサナは、ここまで綺麗な服装をしたことがなかった。だから、サナはこんな格好が出来たことが単純に嬉しかった。
ただ、同時に悲しくもあった。
「海斗に、見てもらいたかったなぁ」
窓の外に目をやる。
その時、ドアが叩かれた。誰かと思うと、ミクの声がしたので入室を許可する。
「サナさん、準備できましたか?」
いつものように、何気ない言葉をかけながら入ってきた彼女に、サナは目を奪われた。
白くて透き通るような腕、身体を包み込む真っ赤な深紅のドレスに身を包んだミクの姿。胸はサナと違って幼いながらも、細い腰、細い腕とのバランスを絶妙に保ち、快活とした雰囲気を醸し出したものとなっていた。
いつもポニーテールにしている髪は、あえて解き放つことで大人の雰囲気が感じられた。
「サナさん?」
「あ、ごめんなさい」
黙ったまま固まってしまったサナを心配した未久が声をかけたことで、意識が戻る。
「いえ、すごくきれいね」
「はい! ありがとうございます。これ、魔王様にお願いして作ってもらったんです」
そういって、サナによく見ようとクルっと一回転する。
「そういうサナさんとても綺麗です! もし、お兄ちゃんがいたら気を失ってるかもしれないですよ」
「ありがとう」
素直な感想に思わず照れて顔が赤くなる。
ただ、サナには不思議に思うことがあった。
「でも、なんでミクもおめかしを?」
「あれ、聞いてませんでしたか? 私もサナさんと一緒にパーティーに出るからですよ」
「なるほど」
理由は聞かなくとも、何となく理解することはできる。
おそらく、ミクという勇者の存在をあちらの貴族に見せつけるためでしょうね。
「じゃあ、行きましょう」
ミクはサナさんに手を差し伸べる。
だが、サナはそれをみて思わず吹き出してしまった。
「サナさん?」
いきなり笑われたミクは怪訝そうにサナをみる。
「ごめんなさい。でも、おかしくて」
「おかしい、ですか?」
「うん。だって、これじゃあまるで、ミクがエスコートするみたいじゃない」
そう言われてミクは自分の手を改めてみる。
すると、手の平を上に向けまるで、男性が女性を誘うかのように差し出されていた。
「っ⁉」
頭でそれを理解すると、急激に顔が熱くなるミク。けれど、それを無理やり鎮めるかのように言葉をひねり出す。
「い、良いんです! だって、今はお兄ちゃんがいないから、私がサナさんをエスコートしま
す!」
そういって、改めて手を差し伸べるミク。
それを見て、サナは微笑むと。
「分かったわ。よろしくね、ミク」
そういって、ミクの手を取り、転移の間へと移動するのだった。
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