第五篇 聖都決戦篇 第二章 獣の国(10)
「サナさんお疲れ様。まだご飯作ってないよね?」
「えぇ。これから作るところよ」
「良かった! じゃあ、今日は私が作るね」
そういうと、両手に持っている袋を見せてくる。
どうやら食材も持ってきてくれたようだ。
「そう、じゃあお願いするわね」
そう返すと、私は再び椅子に腰を下ろした。
ちなみに、これまでミクの食事はさなが作っていた。
おそらく妊婦でもある私に、いつも作らせるのは申し訳ないとでも思ったのだろう。正直、私は今のところまだ大変というわけでもないし、職業柄家事が嫌いというわけでもないので、気にしなくてもいいのだけれど…。
海斗と同じでミクも真面目な子だから、そういうところはしっかりとしたいのだろう。
ミクがキッチンに行くのを見送る。
「…」
「さて、何をしよう。やることがなくなってしまった」
サナ達の住む世界に、娯楽がないわけではないが、現世と違ってゲームなどがあるわけではない。時代的に例えるならば、中世と同じくらいといえば想像しやすいだろう。
そんなわけで、手持ち無沙汰となってしまったサナは、自然と足はキッチンへと向かっていた。
「あれ、どうしたんですか?」
「いや、ちょっとやることがなくてね」
「いいんですよ、いつもサナさんは頑張っているんですから」
「んー、でも…」
そんなサナに、ミクは顎に手を当て少し考えてから。
「そういえば、サナさん本読むのがお好きじゃないですか。本は読まないんですか」
「部屋にあるものはほとんど読んでしまったわね。書庫の本はまだ読めてないのがたくさんあるけれど、持ち出しは出来ないから」
どの時代においても、知識というものは非常に重要なものである。その塊ともいえる本は、重要なものは国で厳重に管理されているのだ。
「あー、そうなんですね」
あんまり本を読まないミクは、書庫のことなどは知らなかったようで改めて考えるそぶりをする。
そして、数秒の後「あっ」となにかを閃いたと人差し指を立てる。
「なら、お裁縫とかどうですか?」
「お裁縫?」
「はい! これから赤ちゃんとか生まれたりしたら、お洋服とか買うんじゃなくて、サナさんが作ったのを着させるとか。どうでしょうか?」
「なるほど…」
確かにそう言うのもいいかもしれないわね。
家事とかこれまでいろいろやってきたけれど、裁縫はあんまりやってこなかったし、この機会に初めて見るのもありね。
「少し、やってみようかしら」
「はい! ぜひぜひ。あ、もし手伝えることがあったら言ってくださいね。私も少しだけですが、
向こうの世界でやっていたので」
へぇ、本当に家事全般は何でもできるのね。それで、且つ戦闘能力も持っている。ほんと未久が義妹でよかった。
「えぇ、そうするわ。けれど、今日の所はここでミクのことを見ていることにするわ」
私は、心情を隠しつつそう声をかけると、ミクは恥ずかしそうにしながらも調理に戻った。
正直、パーティのことを考えると憂鬱でしかない。只、今こうやって誰かといることで、ミクといることで、心が自然と落ち着いていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




