第五編 聖都決戦編 第二章 獣の国(9)
納得がいかない。
サナは心の中で悪態をつきながらも、黙ってスフィアの後に続く。
「納得いかないですか?」
そんなサナの心を見透かしたように、スフィアは歩きながらそう言った。
「…えぇ。魔王様にはご恩もありますし、尊敬もしております。ですが、だからこそ私には今回のことが納得いかないのです」
サナは一瞬悩んだものの、思っていたことをそのまま口にした。
それを聞くと、スフィアが足を止めてこちらを振り返った。
お互いの目線が交差する。
サナはもちろん反抗的な目でスフィアを見つめるが、スフィアの方はいたって冷静であった。
「…」
「…。はぁ」
一瞬、二人の間が緊張に包まれたが、スフィアがした大きなため息により急速に緩和される。
「とにかく、今回は指示に従いなさい。どんなに納得がいかなくともだ」
そう言うと、前を向き直り再び歩き出す。
反応からして、何かしら理由を教えてくれるのではないかと思っていたサナは、思わず固まってしまった。
そして、次の瞬間にはそれ以前よりも不満は高まってしまっていた。
「どうして二人とも何も言ってくれないの」
サナは、今回のことに関して不満を抱えていたのだが、二人の態度から、何か裏に隠していることがあるのではないかと考えていた。
ただ、それが何なのか今のサナにはわからなかった。
だから、今のサナはスフィアの後をついていくしかなかった。
そうして連れてこられたのはとある部屋だった。
部屋の中にはメイドが数人待っており「お待ちしておりました」とスフィアに対して頭を下げる。
サナはもともとメイドであるため、見知った顔の者もいるため、とても居心地が悪いように目が泳ぐ。
そんなサナをそのままに、スフィアはメイドと話を進める。
「サナ」
「は、はい」
部屋の中の方に進むと、先程まで控えていたメイドがサナの周りに集まり、身体の採寸を始めた。
「あの、スフィア様。これは、一体何を…?」
「何をって、服を作るための採寸に決まっているでしょう。パーティーのためのドレスを仕立てるのですよ」
なるほど。
行きたくないという気持ちが先行しすぎて、服装のことをすっかり失念していた。
魔王様に拾われた身の私はもちろんドレスなど持っていないし、着る機会もないと思っていたため、一着もそんなもの持っていない。
まぁ、持っていたとしてもとても国家が主催するパーティーには着ていけるものではなかっただろう。
採寸は数分で終わった。
ドレスの色やデザインの要望などを聞かれたが、私にもそういうものがよくわからなかったので、全てお願いすることにした。
ただ、一点だけ派手で露出が多いものはやめてほしいとだけ言っておいた。
これは、私が露出などを嫌っているというのもあるが、何より海斗以外に余計に肌を見せたくなかったためだ。
その後、私は部屋に戻るよう言われその場を後にした。
本当はパーティーでも礼儀や、作法を教わるらしかったのだが、気持ちを落ち着かせるためにも一日おいたほいがいいだろうと、スフィア様が明日にしてくれたのだ。
「はぁ…」
部屋に戻り、椅子に座ると流れるようにため息が漏れた。
「寂しい、辛い、会いたい」
海斗がここを経ってからまだ二週間も経っていない。
しかし、サナの心は耐えがたいものとなっていた。
「慣れた思っていたのだけれどね」
確かに、ここ数日は気分も優れていた。
ただ、いつもミクがいてくれたからなんとかなっていただけなのかもしれない。
そんな時「ぐぅ〜」と音が鳴った。
そのことに少々赤面しつつ、この場に誰もいないことに安堵した。
どんなに悩んだりしていてもお腹は空くし、眠くもなる。お腹の中に赤ちゃんがいる今は尚更だった。
窓の外を見ると、空はすでに夕焼けが支配し、端では漆黒が侵食を始めていた。
「さて、ご飯の支度しなきゃ」
そういって立ち上がると、ちょうどドアが叩かれ「どうぞ」というとミクが顔を出した。
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