第五篇 聖都決戦篇 第二章 獣の国(4)
アリスは咄嗟に海斗から離れる。
そして、何かを言おうとわたわたと腕を動かし、口はパクパクと動いているが声にはなってはいなかった。
「ア、リス?」
海斗もいきなりの状況に頭が追いつかず、しばらくはアリスを見つめるのみだったが、何とか声を出す。
だが。
「ん、んんー…」
声にならない、よくわからない声を出しながら部屋を飛び出していってしまった。
「おいっ! アリス!」
走り去る背中に向かい大声で呼びかけるが、アリスには聞こえていないのかそのまま走り去ってしまった。
唖然とし、固まる俺。
すると、突然肩を叩かれ慌てて振り返ると。
「やぁ」
なぜか優しく微笑むエリスがいた。
「ち、違うんだエリス。決して俺は…」
慌ててアリスの姉であるエリスの弁明の言葉を連ねるが、エリスはそれをせいし、
「分かっているさ」
「そ、そうか」
事情を察してくれたかのような態度に、心は落ち着きを取り戻すのだったが、ふと疑問が頭をよぎる。
あれ、なんでエリスもここに居るんだ?
そう思った俺は改めてエリスのことを見る。
すると、またもや先ほどと同じようにやさしい微笑みをこちらに向けてきていた。
その表情がどこか怖さを覚えるものがあったが、俺は意を決して聞いてみることにした。
「な、なぁエリス」
「なんだ、海斗よ」
「アリスもそうだけど、エリスもなんでこの部屋にいるんだ」
それを聞いたエリスは、突如先ほどまで微笑みを崩し、今にも泣きだしそうな顔になる。
「覚えていないのか、全く、せっかく旅立ちの前に良い酒を持ってきてやったというのに」
俺はそこで意識を失うまでのことを思い出す。
そうだ、俺はお酒を一緒に楽しんでて、そしたら突然気を失ったんだったか。
だけど、お酒で気を失うなんて初めてだが、そんなに強いお酒だったのか。
「それは、すまん。いつもはこれくらいの量でここまではならないんだけど」
「ふむ、ちょっと海斗には強いお酒だったのかもしれないな。まぁ、今回は確かめなかった
私にも非があるといえよう。故に、今回のことは不問にしといてやろう」
「ありがとう」
「さ、明日も早いのだろう。もう寝たほうがいい」
そういって立ち上がると、早々に部屋を立ち去ろうとドアへと足を向ける。
俺は、そんな彼女の姿を目で追いながら、何か変な感じがした。心がざわつくような、違和感がふつふつとこみあげていた。
だから、俺は心そのままに呼び止める。
「エリス」
「なんだ」
エリスは正面を向いたまま答える。
その行動がさらに海斗の心をざわつかせた。
「何か、俺にかくしてないか?」
刹那、空気が固まったきがしたが、それも一瞬で。
「なにを言っているんだ。私が隠し事などするわけなかろう」
「そうか。悪い、変なことを聞いた」
「ばかなこと言ってないで、早く寝るのだぞ」
そう言うと、妖艶な雰囲気のドレスを揺らしながらゆっくりと廊下を歩いていく。
「あぁ…」
そんなエリスの姿を、未だぬぐえぬ違和感を抱えながら見つめ続けた。
気づいた時には、只冷たい廊下が視界にあるのみだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
間隔があいて本当に申し訳内です。




