第五篇 聖都決戦篇 第二章 獣の国(2)
更新が遅れてしまい申し訳ありません。おそらく、しばらくこんな感じですのでご容赦ください。
「まったく、本当にお酒が弱いのだな」
目の前で椅子に横たわりながら意識を失った海斗を見ながら、エリスは一人呟く。
なぜしばらく会っていなかったエリスが、海斗がお酒に弱いということを知っていたのかというと、アリスから聞いていたからだ。
アリスは定期的にソヴィーア大国に足を運んでいたため、徐々にサナとの仲を深めていた。そんな中で知ったことを、エリスは巧みに聞き出していたのだ。
まぁ、アリスは私のいうことに絶対言うことを聞いてくれるからな。
アリスは、持っていたグラスを机に置くとおもむろに立ち上がり、海斗に近づいていく。そして、ぐっと顔を近づける。
「こんなに近くで見るのは、あの時以来か」
あの時とは、以前追っ手にエリスが終われていた時、ともに海斗と野宿をしていたのだ。
「まさか、あの時はこんな風になるとは夢にも思わなかった」
窮地の場面で命を救われ、妹を助けてもらい、国を救ってもらった恩人。
そんな海斗は、エリスの心はただの恩人には収まらず、恋心へといつしか変わっていた。
だが、エリスは一国の王女である。
エリスにはいろいろと国でやるべきことがあり、軽率に海斗に会うことはおろか、大国に行くことすらできない。それ故に、アリスが大国に行っていたのだ。
そんな中でも、いろいろと落ち着けば海斗に会うことが出来る。それを信じて仕事に励んでいた。
そして、エリスはあることを決意していたのだ。
会える回数がほとんどないからこそ、今度会った時には以前にしたような冗談交じりなものではない、本気のプロポーズをしようと。
だが、ある日アリスから聞かされた衝撃の展開に、彼女の心は変化を見せる。
そう、海斗とサナの婚約である。
それを聞いた時は、アリスに悟られないようになんとか取り繕ってごまかした。だが…。
「海斗…。せめて、一度だけ夢を見させてくれ」
エリスは誠実な人間である。
だから、多重婚などのような考えは浮かばない。そして、不倫は相手も海斗をも傷つけてしまう。
そこで思いついたのが今回の事である。
――― なら、海斗の記憶に残らないようにすればいい ―――
結局、こんなことをしておきながらも、一番は海斗の幸せを願っているのだ。
だから、このようにお酒を飲ませて意識を飛ばし、思い出を残らないようにしたのだ。乙女の初めての思い出を、不純な行為の記憶を、エリスのみに刻み込まれるように。
「海斗、私がわかるか?」
返事はない。
それを確認し、エリスは改めて気持ちを整える。
「ふぅ。神様、私は今から罪を犯します」
そして、意を決したようにエリスは顔をさらに海斗へと近づけた。
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