第五篇 聖都決戦篇 第二章 獣の国(1)
スレべニア国に到着後、一日の滞在の後に出発する手はずとなっている。
そんなわけで、俺は城の一室で身体を休めていた。ちなみに、夕ご飯は既にエリス達と共に食べ終えている。
すると「コンコン」とドアが叩かれる。
夜も既に更けてきていたので、一体誰だろうと思いつつドアを開けると、
「やぁ、もう寝るところだったかな?」
寝巻姿のエリスがいた。
「いや、もう少し起きてようかと思ってたから大丈夫だよ」
俺はそう言いつつ、部屋の中へと案内する。
大丈夫だといいつつ、俺は少し動悸が乱れていた。
なぜかって? 別にエリスが部屋に来たことは問題ない。問題なのはその格好である。
寝巻着といったものの、なんというか、薄着だ。薄黄緑色のシルクのような服装だ。そして、上から下までがワンピースのように一つになっており、大胆に開いた胸元に思わず目が引き寄せられてしまう。
いわゆるネグリジェというやつだろう。
俺は深呼吸をしつつ、早くなった心拍数をどうにか抑えようとする。
「どうしたのだ?」
そんな姿を不思議に思ったエリスから声がかかるが、
「な、なんでもないよ」
そう答えて、ごまかす。
「そうか。なら、早く座るがいい。実はな、明日旅立つ海斗の為に良いものを持ってきたのだ」
その直後に「ダンッ」と一本の瓶がテーブルに置かれる。
「これは…、ワインか」
「そうだ。今日の為に良いものを用意しておいたのだ」
「あ、ありがとう」
「む、どうした」
「いや、何でもないよ」
「ほう、では早速飲み始めよう」
早く飲みたそうに、嬉々としてワインの栓を外すエリス。
だが、俺は全く嬉しさはなかった。
いや、それは語弊を生むかもしれないが、決してエリスの気持ちが嫌なわけはない。むしろ、こんな風に俺の為にワインを用意してくれたことはとても嬉しく思う。
ただ、一つだけ問題があるのだ。
俺は、お酒は苦手だということだ。
だって、本当なら俺まだ未成年だし。
そして、前に一度だけサナに勧められて飲んだのだが、すぐにダウンしてしまった。
そんなわけで、俺はお酒は遠慮したいんだが…。
「これは○○の所で育てられたブドウを使っていてな…」
とてつもなく言い出しづらい。
そして、なんか物凄く語りだしてしまった。
もしかして、エリスは酒豪だったりするのだろうか。
しかし、せっかくのエリスの好意をないがしろにするわけにはいかないし。
そんな風にあれやこれやと悩んでいると、いつの間にかワインがなみなみ注がれたグラスが目の前にそびえたっていた。
「さぁ、では飲もうか」
「…あぁ」
俺は諦めながらグラスを掲げる。
「「乾杯」」
俺はどうにでもなれと思いながら、グイっと一口二口と流し込む。
「あれ?」
全然飲める。
「どうだ、あんまりお酒という感じがしないだろう」
「あぁ」
「私が選んだお酒だからな」
すごいな。
お酒はこんなにも味が違うのか。
じゃあ、俺が前に飲んだやつはそんなに良いものじゃなかったんだな。まぁ、市場で買ってきたやつだしな。
とまぁ、何にも知らない俺はグビグビと一杯、そしてもう一杯とすぐに飲み干してしまった。
だが…。
「あれ…」
なんだか目がぼやけて…。
「大丈夫か、海斗」
なんだか世界が回って…。
俺は、意識はそこで途切れてしまった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




