第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(11)
「じゃあ、ルーシーには俺から言っとくから」
俺に抱き着いているミクの頭をなでながらそう言うと、ミクは嬉しさ半分、心配半分といった表情で
「ありがとう」
といいながら、ぎゅっと腕に力を強めてきた。
「そんな心配しなくても、無理はしないから」
「うん」
そして、ミーシャとミクは俺の部屋を後にした。
「ほんと、自己犠牲が好きですね」
ドアが閉まると、後ろからそっとサナに包まれる。
「お人よしといってくれ」
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そんなわけで次の日。
「ダメに決まっておるだろう」
あっけなくルーシーに切り捨てられてしまった。
「な、なんでだよ」
「何でも何もない。まず、敵地のど真ん中に行くこと。そして、敵がどう動いてくるかわからない中、戦力を分散したくなということじゃ」
確かに…。ルーシーの言っていることは理にかなっている。
だが、俺もここで引くわけにはいかない。
「じゃあ、ミーシャを一人で行かせてもいいって言うのか」
「それは…」
どうやら、ルーシーもミーシャを一人で行かせることには抵抗があるようで、煮え切らない返事が返ってくる。
「じゃが、お主は本当に良いのか?」
いきなり、俺に問いかけを返してきたので、頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
「てっきり儂は、今日お主が来たのは、獣王の使者として国に行きたいといわれると思っておったのじゃが」
それを言われて「あっ」と思わず声が漏れた。
「さてはお主、忘れておったのじゃな」
「いや、そういうわけじゃないぞ。ただ、ちょっといろいろあってな」
思わぬところからわいた伏兵に、みっともなくたじろいでしまう。
実は、ルーシーが去った後の話を聞いてから、一度サナの故郷と、その仲間というか、ご先祖というか、とにかく獣人の国には一度言っておくべきだと考えていたのだ。
「まったく。獣王の話をした時から気になっておったくせにのう。心配して損したのじゃ」
スフィアの話から、獣王に会いに行くのは命懸けだ。だから、それを説得しようと俺が来るのを今か今かと待っていたのだろう。
それが、まさか別の相談を受けて、拍子抜けといった感じなのだろう。
まぁ、その相談も同等のものであったけど。
「じゃ、じゃあ。獣王のところに使者として言った後に、そのままミーシャの実家に行ってくるよ」
「儂がそれを認めると思うておるのか」
「ですよね…」
やはり、速攻で返された。
それはもう某バレー漫画みたいな速さで。
「…」
「…」
黙ってルーシーの目を見つめ続ける。
ルーシーも負けじと見つめ返してくる。だが…。
「はぁ…。わかった。お主の隙にするがよい」
五・六分の死闘の末、ようやくルーシーが折れてくれた。
「じゃが、絶対に死ぬことは許さん」
そういう顔は、先ほどまでとは違い、ものすごく真剣な表情と雰囲気でそういってきた。
有無を言わせぬその圧力に、俺はただ首を縦に振ることしかできなかった。
「なら、もう行くがよい。儂は今忙しいんじゃ」
そういって、手をはらはらとするルーシー。
さっきの圧力にすっかり気圧されてしまった俺は、
「あぁ。すまん」
ただそういって、部屋を後にした。
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海斗が部屋を後にした後。
「はぁ。まったく困ったやつじゃのぅ」
座っていた椅子から立ち上がり、窓の外に目を向ける。
「なにも起こらんと良いのじゃがな…」
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