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第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(10)


 俺が部屋に戻ると、既にサナが夕飯の用意をしてくれていた。


「ただいま」


「あ、おかえりなさい。もう少しでできるから」


「あぁ、ありがと」


 キッチンに顔を出しながらそう言うと、笑顔を携えてこちらを振り返るサナ。

 会議で少々疲れてしまった俺は、椅子に座るとだらしなく背もたれによっかかる。そんな俺をきづかって、お茶を黙って置いてくれる。


「横になっててもいいよ」


 サナはそう言ってくれるが、さすがにサナに家事をやらせといてそれは出来ない。


「大丈夫だよ、ありがと」


「そう」


 されだけ確認すると、キッチンに戻っていく。

 しばらくすると、お皿を持ったサナがこちらへとやってきた。


「まだ持ってくるものある?」


「うん」


「じゃあ、あとは俺が運ぶから先に座っててよ」


「分かった」


 キッチンに行き、残っていた他の料理を手に持ち部屋へと戻る。

 すると、ちょうどその時ドアがコンコンと叩かれたので、皿を置いてからドアを開けると。


「お兄ちゃん!」


 ミクがばふっとそのまま抱き着いてきた。


「どうしたんんだ? ミクだけじゃなく、ミーシャも」


「うん、ちょっと話したいことがあって」


 とそこまで言って、クンクンと部屋の方の匂いを嗅ぐミク。


「すごいおいしそうな匂いがする!」


「ちょうどご飯食べようとしてたところだったからな」


 それを聞いて、急に申し訳なさそうにするミク。

 それを察してか、部屋からサナがこちらへとやってきて。


「じゃあ、ミク様もたべていきますか?」


「えっ、良いんですか? あ、でも…」


 困った顔をしながら俺の顔を伺ってくる。


「サナが大丈夫なら、大丈夫だよ」


 そう言うと、ミクは嬉しそうに笑顔になり、俺から離れてサナに頭を下げる。


「ありがとうございます!」


「ミーシャも食べるだろ」


 後ろにいたミーシャにも声をかけると、


「あ、はい。ありがとうございます」


 そういって、俺の横を通り部屋の中へと入る。



--------------------------------


「じゃあ、いただきます」


「「「いただきます」」」


 挨拶をして、各々が料理に手を付ける。


「うわぁ、やっぱりサナさんの料理おいしすぎる!」


「ホントだね」


 サナの料理に感嘆の声を漏らす二人。


「そうだろう、そうだろう」


「なんで海斗が得意げな顔をしてるのよ」


 いいじゃないか、サナが褒められると嬉しいんだから。

 そんな他愛もないことを話しながら食事をしていった。



--------------------------------------



「それで、話っていうのは?」


 ご飯の片づけを終え、一息ついてから俺はそう尋ねた。

 だが、その答えに俺は驚きに顔が張り付けられることとなる。


「あのね、私聖都に戻ろうと思う」


 聖都にもどる、だって?


 だが、俺の反応を予想してか、そのまま話をつづけていく。


「何を言ってるんだって思うんだけど、ミーシャがどうしても無効に戻らなきゃいけなくて、でもミーシ

ャだけじゃ危険だから、私も一緒に行くことにしたの」


 ということらしいのだが…。

 なぜかミーシャも驚きで固まってしまっている。


「そのことを相談するんじゃなかったの?」


「ん? 相談してるでしょ」


 二人の会話から察するに、どうやら俺にミーシャが聖都に行くのをどうしたらよい宇野か、というのを

相談しにきたっぽいけど…。

 どうやら二人で認識がかみ合ってなかったみたいだ。 


「そ、そうなの、かな?」


 ミクの力押しな発言で、納得してしまったミーシャ。

 まぁ、とりあえず何か事情があることは分かったのだが。


「ダメだ」


 俺はまだ「いやでも…」と言い争っている二人に強気な口調でそう言い放った。

 その言葉を聞いた瞬間、パッとこちらを向くミク。

 そして、


「なんで? べつに一人じゃないからいいでしょ」


 机に身を乗り出しながらそうまくしたててきた。


「何でも何もない。危険だからだ」


 それにすかさず反論してくるミク。


「大丈夫だよ、私強いもん」


「確かにミクは強い。だけど、今の敵は向こうの国々のすべてだ。出会う人すべてを敵だと思った方がい

い。そんなところにミクを向かわせられるわけないだろ」


 俺の意見は論理的だ。

 確かに、妹をもう危険な目に合わせたくないという感情論も含まれているが。

 そんな俺の反論に、いつも俺の意見にはあんまり逆らわないミクだが、今日は違った。


「いいよ、全部倒せばいいんだもん」


「そんなことしたら、一般人まで殺しことになっちゃうだろうが」


 俺はヒートアップしている妹の頭に軽くチョップを食らわせる。


「ううぅ」


 恨めしく俺のことを見てくる。

 だが、その姿はまったく怒ってるように見えず、どちらかというと、ぷすぅと膨らませるその姿は可愛いとしか言いようがない。


「とにかくだめだ。もちろん、ミーシャがいくのもな」


「えっ? 私もですか」


 いきなり自分の方に飛んできたからか、驚きの声を上げる。


「当たり前だろ。ミーシャも、もう教会を敵にまわしちゃってるんだから。何が起こるかわからない。ましてや、捕まったりしたら何をされるかわからないぞ」


 もう俺の中で、ミーシャも守るべきものの中に入ってるんだから。


「そう、ですよね…」


 俺の思いが伝わったのか、ミクとは違い、意外にも素直なミーシャ。


「ダメだよ! 妹さんがどうなってもいいの!」


 その未久の言葉に俺は、心が一気に揺らいだ。


「どういうことだ」


「ミーシャには妹さんが国にいるんだって。それで、この前知り合いの人にあって家に呼び出されたの。

でも、もし無視したら妹さんにしわ寄せが行くかもって。だから、ミーシャは戻ろうとしてるの」


 なんだよ、そういうことだったのか。


「なんで先にそれを言わないんだよ」


 俺は頭を掻きながらそう言うと、


「言おうとしたよ。でも、その前にお兄ちゃんがダメって言いだしたから」


 そう言われ、思い返してみる。

 ん~、言おうとしてたか?

 俺は確認のためミーシャを見ると、首を横に振られた。

 やはり、言おうとしてなかったらしい。

 まぁ、ここで否定すると面倒くさそうなことになりそうなので、そういうことにしておこう。


「だけど、それでも行かせられない」


「でも、そうしたら…」


 当たり前のごとく、俺は同じく反対し、ミクは抗議する。

 だが、俺だってミーシャの気持ちがわからないわけでもない。もし俺が同じ立場だったら、すぐにでも飛び出していると思う。

 だから、俺は悲壮感に満ちているミーシャを見ながら


「だから、俺が行く」


 その言葉に言葉を失う一同。


「そ、そんなのだめだよ。私には行くなって言っといて」


 確かに、俺の言っていることは矛盾しているかもしれない。でも…。


「ミクは勇者として顔を知られているが、俺はそれがない。それに、お前よりも俺の方が強いだろ?」


 決まったぜ。

 そう思ったのだが。


「え、私の方が強いんじゃない?」


「そ、そこは素直に肯定してほしかったな」


 そりゃそうさ。俺はただの召喚獣で、ミクは勇者じゃん。

 あぁ、改めて言われると恥ずかしい。

 そんな羞恥心を何とか心の中で抑え込み、説得へと戻る。


「それでもだ。お前を行かせるわけにはいかない。だから、俺が行く。それでミーシャもいいな」


 俺の有無を言わせぬ物言いに、押し黙る二人。


「じゃあ、俺はルーシーに相談してくるから」


 そう言って、俺はそこで初めてサナの方を見る。

 多分、今の俺はものすごく申し訳なさそうな表情をしているだろう。

 だって、すぐ隣にいながらも、俺は全く相談しないで事を決めてしまったのだから。

 だから、もちろんサナの顔はものすごく固いものだったのだが。


「はぁ。しょうがないわね」


 そういって表情を崩す。

 この反応に、俺だけでなく二人も予想外だったのだろう。「えっ」といった顔で固まってしまっている。

 そして、すぐさまミクが交互の声を上げる。


「サナさん、いいんですか!」


 おそらく、最後の砦としてサナに止めてもらおうと思ったのだろう。だが、


「話を聞いた時から、こうなるんじゃないかと予想していましたから」


「そんなぁ…」


 それを聞いてあからさまに落ち込むミク。

 それを横目にしながら、俺はサナに向き直る。


「サナ、その…。ありがと」


「いいのよ。だけど…」


 そこまで言って、真剣な表情になると。




 ――― 必ず、無事に帰ってきてね ―――




 その表情は、真剣ながらもどこか悲し気で、寂しげで、今にも泣いてしまいそうでもあった。

 あぁ、本当は俺もミクに対してこういう風にしなきゃいけなかったのかな。

 本当に、サナには頭が上がらない。


「当たり前だろ。もう、一人の身体じゃないからな」


 そういってどちらともなく体を近づけ、抱きしめあう。

 そんな姿を、残りの二人は。


「…」


「…」


「甘いね」


「うん、甘い」


 このように生暖かい目で見ていた。




最後までお読みいただきありがとうございました。

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