第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(9)
会議室でミーシャに呼ばれた未久は、ミーシャの部屋へと来ていた。
部屋にある椅子に、対面になって座ると、おもむろにミーシャは口を開いた。
「ミク、一回実家に戻ろうと思うんだ」
「え、どうしたの急に」
いきなりの帰省宣言に驚くミク。
そんなミクを落ち着かせるよう話を続ける。
「この前、用事があってスレべニア国の方に行ってきたの。実はそこで知り合いにあってしまって…」
「それって、家の方にいた時の?」
ミーシャは黙って頷く。
「今のスレべニア国って、魔国派だけど、人族は普通に出入りしているでしょ?」
「うん」
「それで、うちの家って貴族だから商人とも結びつきが強くてね」
「なるほど、その人と向こうで遭遇しちゃったんだね」
「そうなの」
そういって俯き、自分の手を眺める。
「でも、それでなんで家に行くの?」
「…」
ミーシャは「ふぅ」と一呼吸おいてから、話をつづけた。
「それが、私達ってまだ勇者一行としてあっちでは言われてるらしいの。それで、親が私のことを呼び戻しているらしいの」
それを聞いて、全然納得がいかないとミクは頭をひねる。
「それでどうしてミーシャは戻らなければならないの? 無視すればいいのに」
「そうできたらいいんだけどね…。家には妹がいるのよ」
そこまで言われてようやく合点がいったミク。
今の状況だと、敵国に妹がいる状況になってしまう。
たとえミーシャの妹が戦場に出なくとも、貴族の娘ともなればどこで戦争に関わってくるかもわからない。
そんな状況では、ミーシャも気がきではないだろう。
妹を思う気持ち。それは妹が兄を思う気持ちとも同じだ。
故に、ミクはミーシャの気持ちが痛いほど理解できた。当初、お互い敵同士にこの世界に呼ばれた過去がある未久には。
「わかった! なら、私も一緒に行く」
「えっ⁉」
いきなりのその発言に驚愕の声を上げるミーシャ。
「だって、勇者一行なら勇者がいないとダメでしょ? それに、ミーシャじゃ近接戦闘ができないじゃ
ん」
魔法使いであるミーシャは、ミク言う通り単独での戦闘はほとんど不可能なのだ。
「それはそうだけど…。でも、私が言うのもあれだけど、敵国の近くに行くことになるんだよ。それに、海斗さんが許さないよ」
そう言われて、今言われて気が付いたかのような反応をとるミク。
「あぁ。うん…。でも、それはミーシャも同じだと思うけど」
「どういうこと?」
「ほら、お兄ちゃんってものすごいお人よしだからさ、ミーシャを危険なところにはいかせたりしないと思うよ」
そう言われて、自然と頬が赤くなるミーシャ。
「あれ? どうしたの?」
「な、何でもないっ」
そんな顔を見られないようにと慌てて後ろを向いて隠す。
「まぁ、とりあえず私以外にも相談しなきゃいけないことだと思うよ。ミーシャも、みんなにとってはも
う大切な人なんだから」
その言葉に、ミーシャの心は急激に熱くなるように感じていた。
「うん、そうだね。ありがと」
最後までお読みいただきありがとうございました。




