第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(8)
その後、スフィアはさっきのことで仕事ができてしまったので、自室へと戻っていった。
「そろそろ私も帰る」
カップに残っていたお茶を、上品に飲み終えると、アリスはそういって席を立ったので、俺はアリスを呼び止める。
「そういえば、エリスは元気か?」
アリスの姉であるエリスは、現スレべニア国の王女であるため、忙しく全然こちらにはこれていない。
そのこともあり、今日のように連絡係として妹のアリスが、転移魔法をを利用してきているのだ。
そして、アリスは超が付くほどのシスコンであるため、俺のことをものすごく嫌っている。
「別に、あんたには関係ないでしょ」
なので、このようにものすごくつんけんとした返事が返ってくる。
「そこまであからさまに嫌な顔をされると、さすがに辛いわ」
そう言うと、ふてくされながら顔を逸らすが、
「みんなに会いたいって言ってたわ。まぁ、あんたに会いたいとは言ってなかったけどね」
「そうか。なら今度みんなでそっちに行くよ」
それを聞いた瞬間、少し頬が赤くなった気がしたが。
「ふ、ふーん。勝手にすればいいんじゃない。あっ、でもあんたは来ちゃだめだから」
「なんでだよ」
なぜか俺だけハブられたことに、思わずツッコミを入れてしまう。
「あんたすぐお姉ちゃんのことを変な目で見るから」
「見てねぇよ」
とんでもない濡れ衣を着せられてしまった。
「あっそ。お姉ちゃんじゃなくて、私を見なさいよ…」
「えっ、なんか言ったか?」
なんか言ってたが、声が小さくて聞こえなかったので、聞き返したのだが。
「何でもないっ!」
顔を真っ赤にしながら大きな声でそう言われてしまった。
「そ、そうか」
「そうよ。じゃあ、私帰るから」
そう言って会議室を出ていくアリスの後を追う。
「転移陣まで一緒に行くよ」
「…あっそ」
一瞬こっちを見たが、すぐに顔を前に戻しそういって歩き続ける。
その後も、特に話などすることなく転移陣のある部屋までたどり着いた。
「じゃあ、エリスにもよろしくな」
「い・や・だ!」
アリスは「べぇー」と舌を出した後、すぐに魔法を発動させて帰っていった。
まったく、なんでこんなにきらわれてるかなぁ。
そんなことを思いつつ、自室へと戻るのだった。
----------------------------------------------------------
「ふぅ」
スレべニア国に戻ったアリスは、最愛の人である姉のもとへと向かう。ただ、彼に出会ってからは、彼
女にとっての最愛の人は姉だけではなくなっているのだが。
「お姉ちゃん、ただいま!」
部屋まで行くと、ノックもせずに中へと勢いよく入る。
「こら、ちゃんとノックぐらいしなさい」
仕事をしてた手を止め、ちゃんとアリスの行為を注意しながらも、勢いそのままエリスのもとへと飛び込んでくるアリスを受け止める。
「別に誰もいないからいいでしょ~」
「それは結果論でしょ。アリスもお姫様なんだからもっとちゃんとしなさい」
「はーい」
姉の注意に返事をしながらも「えへへ」と甘えるアリス。そんな妹を「しょうがないなぁ」といいながら頭をなでる姉。
「それで、会議はどうだったの?」
「戦況的にはどこも同じだって。それで、どうしようもないから、周辺国家に使者を出すって言ってた」
「そう…」
それを聞いて、少し考えこむエリス。
そんな姉の姿を不思議そうに眺める。
「わかったわ。ありがとう」
「うん!」
話が終わってしまい、これ以上姉の邪魔をしてはいけないと密着させていた体を放すアリス。
「じゃあ、私は部屋に戻ってるね」
そういって部屋を後にしようとしたが。
「そういえば、海斗はどうだった」
その名前に露骨に態度がおかしくなる。
「さ、さぁ。でも、今度こっちに遊びに来るって」
そんな妹の姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
「そう。アリスもそろそろ素直になったらどう」
その言葉にあからさまに頬を染めるアリス。
「私は別に、いつも素直だよ…」
そういって、走って部屋を飛び出していくアリス。
そんなアリスの姿をほほえましく見送るエリス。
「本当に、罪な男だよ」
そうこぼすエリスは、しばらく会えていない想い人を思い浮かべていた。
最後までお読みいただきありがとうございました。




