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第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(7)


 部屋に残されたのは、俺、スフィア、アリスの三人。

 部屋が静かになってから俺はスフィアに声をかけた。


「スフィア、さっきのは…」


「分かっております。その前に、お茶を入れて仕切り直しましょう」


 そう言うと、部屋の端で控えていたメイドに目配せをする。

 そして、席に座って待っていると先ほどのメイドがワゴンを押して部屋へと戻ってきて、お茶とお茶菓子を並べてくれる。

 俺は礼を言いつつ、カップに口をつけてのどを潤す。

 ちょうどカップを置いたところで、スフィアが話を始める。


「では、先ほどのお話です」


 俺とアリスは黙ってスフィアを見つめて、言葉を待つ。



まず、以前までスレべニア国の南方に獣人たちの小都市がありました。ここは、さらに海峡を一本挟んだ、西方の獣人の国とは別のものです。まぁ、支配はその獣人の国が行っていましたが。


 まぁ、橋頭堡が発展して都市になったとお考え下さい。


 そこでは、本国からも多くの獣人が移住し、栄えておりました。ただ、そこは人間の支配領域とも近く安全とは言えなかったのです。

 なので、獣人の国の王、獣王は先代の魔王様との協力体制を取ったのです。

 南から圧力をかける代わりに、何かあった時は守るようにと。



 ですが、守ることが出来ませんでした。



 事が起こったのは、ルーシー様が魔王になってすぐのことでした。

 そのころには、たとえ人間と獣人が争っているからといっても、商人や変わり者などはその小都市を訪れていました。


 しかし、人間たちはそれに目を付けたのです。

 長い年月をかけ、小都市内にアジトを築き、準備をしていたのです。

 そして、ある日魔王様のところに報告が入ります。


 小都市が攻められたと。


 ですが、魔王様たちが到着したころには勝敗はほとんど決していました。

 その小都市は、内側と外側から一気に攻められ、一瞬にして堕ちたのです。


 その後、約束を破られたと激怒した獣王は、残りの獣人たちをそこから救出した後、本国から誰も出さず、入れずという政策に変えたのです。


 ですので、今回使いを出すといったことは、その使いを死地に追いやるに等しく、相互不干渉となっていた両国の関係を崩すことにもなるのです。



「以上が、先ほどのルーシー様との言い争いの原因です。まぁ、私もすべて聞いたり、資料を見たりしたものですが」


 ことのすべてを伝え終わると、そう付け加えてテーブルのカップへと手を伸ばす。

 一方の俺たちはというと、そんなことはなにも知らなかったので、固まったままになってしまう。


 いや、正確にはその戦いのことは知っていたが、詳しくは知らなかったというべきだろう。


 そして、それはアリスもだった。何なら、アリスは当時の主な相手国だったのだろう立場の者だ。

 おそらく、彼女の心の中はものすごく複雑に渦巻いていることだろう。

 俺はというと、確かに驚きに支配されていたが、それと同じくらいに気になっていることがあった。


「なぁ、スフィア。もしかして、サナはその小都市近辺の出身なのか」


 その質問に、スフィアは首を縦に振って応える。

 それを聞いた俺は、ものすごく申し訳ない気持ちになった。


 以前、俺はサナに、サナの故郷を見てみたいといった。しかし、その場所はもう既に亡くなってしまっていたのだ。

 もしかしたら、あの時返事を濁したのは事の終わりを聞いていたのかもしれない。いや、聞かずとも容易に想像できたのだろう。


 そんなことを考えていると、スフィアはアリスに声をかけた。


「別にアリス様は何か気にする必要はないと思いますよ。当時のあなたは生まれているか、生まれていな

いかくらいのことですし」


 その言葉に、一瞬表情が軽くなったが直ぐに引き締め直し、


「いいえ、たとえ生まれてなかったとしても、我が国が関わっていたことは事実。だから、これは背負うべき重荷よ」


「そうですか」


 そう言うと、スフィアは満足したような表情を浮かべる。

 もしかすると、スフィアはアリスのことを少し試していたのかもしれない。


「スフィア、話してくれてありがとう」


「いえ。先ほども申し上げました通り、私も聞いたことを伝えたにすぎませんから」


 俺は用意されたお菓子を一つ手に取り、口に放り込みながらあることを考えていた。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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