第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(6)
その日、俺は会議室へと来ていた。
テーブルを囲むのは、ルーシー、スフィア、ミク、アリス、俺だ。
部屋に集まった時は、皆楽しく話をしながら笑顔を浮かべていたのだが、いざ会議となると一様に雰囲気が引き締まる。
「では、本日皆様に集まっていただいた理由は、今年の戦況について不可解なことがあるためです」
時間になったのを確認したスフィアが、今回の議題に対しての説明を行う。
「例年、冬が開けたこの時期はあちらも大攻勢を行ってくるはずですが、今年は押しては引いてを繰り返しています」
俺はそれを聞いて、ここ最近感じていた違和感に合点がいった。
「もしかして、ここ最近ずっと俺の出陣がないのはそのせいか」
「そうじゃ。海斗が出るほどの戦いになっとらんかったということじゃ」
「じゃあ、今日はその理由と今後の戦略決めということですか」
ミクが手を上げて尋ねると、ルーシーは黙って首を縦に振る。
「そこでアリスよ、何か心当たりはないかの」
アリスは人族の国の王女だ。つまり、今は魔王軍についているので、内容がわからなくとも、何かしら
の推察はできるのではないかということだ。
それを聞いて、顎に手を当て考えるアリス。だが…。
「ごめんなさい、ちょっとわからないわ。けれど、何かしらの策を弄しているのは確かね」
「そうだな、でも弄しているといってもどんなことだろう」
その問いかけに対し、スフィアが答えてくれる。
「策は明らかに時間稼ぎでしょう。そして、何か別策のための陽動が考えられます」
「陽動か…。ルーシー、戦況はどの場所でも同じ状態なのか?」
「うむ、どこも同じじゃな」
これじゃあ、少しじょうほうが少なすぎるな。もう少しあっちの様子が分かればいいんだが…。
皆一様に頭をひねらせるが、何も考えつかずに時間だけが過ぎていく。
「やはり、情報が少なすぎますね」
「そうじゃな、とりあえずこの間にこちらも戦力の増強を図るのじゃ」
「承知しました」
「それとスフィア、獣王とエルフ、そしてイルダー魔公国に使いを出すのじゃ」
だが、その指示に異義の声を上げたものがいた。
普段、仕事のことについては必ず指示に従うスフィアだった。
「恐れながらルーシー様、それは…」
スフィアは出来るだけ申し訳なさそうにしながら口上したのだが。
「これは命令じゃ!」
いつになく強気な口調でそう命じた。
そして、いきなりの変わりように一気にみんなの表情と動きが固まる。
そのことに気が付いたのか、ルーシーは、
「と、とにかく、速やかに使いをだすのじゃ」
そういって、足早に会議室を出ていってしまった。
そして、取り残された俺たちは、まるで時間が止まったかのように固まる俺達。その時間を動かしたのは、魔法使いのミーシャであった。
「もう会議は終わっ、たの?」
ドアを開けたところで固まっている俺たちに気が付いたミーシャは、何とも気まずそうにこちらを見ている。
「あ、あぁ。会議はもう終わってるから安心しろ」
そう伝えてやると、安心したかのようにこわばらせていた表情を緩め、ミクのもとへと駆け寄る。
「どうしたのミーシャ」
「いや、ちょっとミクに話が合って。ちょっと私の部屋に来てもらえる?」
「いいけど…」
ミクはこちらに視線を向ける。
「こっちは大丈夫だから」
そう言ってやると「ありがとう」といってミーシャと共に部屋を後にした。
最後までお読みいただきありがとうございました。




