第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(3)
しばらく二人で風景を眺めた後、良い時間となったので夜ご飯にしようと部屋の前まで来たのだが、何やら部屋の中から騒がしい音がする。
まぁ、大体の想像はつくが。
俺は身構えつつドアを開けると。
「おにいちゃーーーーん!」
我が妹が叫びながら胸の中へと飛び込んできた。
俺はそんなかわいらしい妹を受け止めつつ部屋の中を見渡すと。
「zzz」
ルーシーが俺のベッドで寝息を立てながら横たわり、さっきまで未久と話していたのか、椅子にはスフィアが座ってこちらを見ていた。
「どうしたんだよ、みんな揃って」
そう言った瞬間、何やら二人の雰囲気が変わり。
「妹が兄の部屋に行くのは当たり前だよ?」
「妻がご主人様の部屋に行くのは当たり前です」
二人の変な気配に気圧され思わず俺は「あ、はい」といってしまうが。
「いや、ちょっと待て。未久はいいとして、スフィアは俺の妻じゃないだろ」
「そんな、私にあんなことやこんなことをしてきながら、そういうことをおっしゃるのですね…。シクシク」
「勝手に物事を捏造するな」
見え見えの演技に呆れながらそう返したのだが、途端にすぐ横からものすごいプレッシャーを感じた。
まるで、あの魔力暴走した時のサナのような。
俺は慌ててサナを見ると、ものすごい怖い笑顔でこちらを見て。
「へぇ、あんなことやこんなことしたんですかぁー。ウフフフ…」
「いや、してないから! そのオーラをしまってぇ」
そんなこんなと騒がしくしていると。
「んんー。なんじゃ、騒がしいのぅ」
ねぼけ眼をこすりながらルーシーが体を起こす。
そして、俺の存在に気が付くが。
「…zzz」
倒れるようにベッドに戻り、再び眠りについた。
「て、ルーシー様! なんで当然のようにここで寝ているんですか」
サナがベッドに駆け寄り布団を引きはがす。
「なんじゃ、寝るくらい良いではないか。我は眠いのじゃ。はぁ、海斗に包まれているようじゃ」
「ルーシー様、そんなに眠いならお部屋まで運んで差し上げます」
そう言うと、サナはルーシーの体を抱きかかえる。
「不敬であるぞ! 魔王の我にこんなことしてよいと思うておるのか」
「私はもうルーシー様には仕えておりませんので」
「くっ、こんな時だけそんなこと言いよって。おろすのじゃ」
暴れまわるルーシーを平然と抱きかかえて運ぶサナ。
ほ、本当に怒らせて怖いのはやはりサナかもしれない。
そう、静かに心に刻んだ。
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しばらくして、ルーシーの部屋にルーシーを運んだサナが戻ってきた。
「ルーシーはどうしたんだ」
「部屋でねてるわ」
「そうか」
しかし、あんなに暴れてたのによく寝たな。そんなに眠かったのか?
「さて、ごはんすぐ作るわね」
そういって、台所に向かおうとするサナだが。
「あれ、そういえばスフィア様がいないわね」
そういって、再び異様なオーラをまとうサナ。
あ、これまずいやつだ。
そう思った俺は慌ててサナの前に立ち、台所へ向かおうとするのを阻む。
「どうしたの海斗。なぜ、私の前に立つの?」
「いや、実は夜ご飯はスフィアに作ってもらおうと思ってな」
俺は内心冷や汗をかきながらそういう。
「なぜ? 私のご飯より、スフィア様のご飯が食べたいと。そういうこと?」
「ち、違うんだよ。ほら、今日はずっと歩きっぱなしだったから。その、お腹の子にさわると、あれだ
ろ」
そう言うと、さっきまでのオーラが嘘のように収まり、顔を赤らめる。
「そ、そっか。私の為に、ね」
「あぁ」
うん、決してスフィアが台所に行って勝手に料理を始めたわけではない。
そう、決して…。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「そうしてくれ、あはは」
俺は作り笑いをしつつ台所へと向かう。
すると、顔をニヤニヤとしたスフィアが待ち構えていた。
「そういうことだから、そういうことにしといてくれ」
「えー、お願い事をするときはなにか対価を差し出すのが常識ですよ。ご主人様」
そういって体を摺り寄せてくるスフィア。
くっ、サナに劣らずなんていう脅威だ。(胸囲)
俺は己の中の欲に抗いながら。
「わかった。わかったから、なんでもしてやるからとにかく離れてくれ」
その瞬間、パッと離れるスフィア。
そして、妖艶な笑みを浮かべるスフィアをみて「しまった」と思う。だが、もう手遅れであった。
「そうですかぁ、何でもしてくださるのですね」
「いや、なんでもというわけには…」
「じゃあ、サナにあることないこと話してしまいますよ」
「いや、せめてあったことだけにしてくれよ」
俺は必死に説得をする。
そんな俺の姿を見て、笑いをこぼすスフィア。
「じゃあ、今度わたくしと出かけましょう」
どんな要求をされるかと思い、怖かったのだが、意外と普通のお願で胸をなでおろす。
「なんだ、それくらいなら…」
そこまで言ったところで、俺の考えが甘いことを知る。
「つまり、デートということですけれど」
「へっ? いやいや、出かけるだけだろ?」
「でも、それをサナが知ったらどう思いますかね」
「そ、それは…」
考えるだけでも恐怖を感じた。
「あの、このことは内密に…」
「そうですね! 二人だけの秘密です、ご主人様!」
そう言うと、嬉々としてご飯の支度に戻るスフィア。
俺は、その後ろ姿を可愛いと思いながらも、未来に不安を覚えて何とも言えない気持ちが渦巻いていた。
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