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第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(2)


 次の日…。


 休暇を取った俺は、以前ルーシーと共に出かけたときに使った裏口でサナを待っていた。

 なぜ同じ部屋で浸食を共にしているにも関わらず、こんなことをしているのかというと、これがデートだからだ。以上。


 だって、そっちの方がなんか非日常感があっていいだろう。


 そんなわけで、時間だけを決めたあとは行動をずらして、俺はここにいる。


「海斗、おまたせ」


 そんなこんなしているうちに、どうやらサナが来たようだ。

 俺は声がした方を振り向く。が、俺の身体はそこで固まってしまう。


 なぜなら、そこには女神がいたからだ。 


 薄い水色のワンピースに身を包み、裾丈は長すぎず、短すぎずと、サナにぴったりな長さとなっている。腰にはリボンを巻いてただでさえ細いウエストがさらに細く感じるほどだ。

 今の時期はそれほど寒くはないからか、服の袖はなく涼し気な格好だ。

 そして、いつもは髪で隠れている耳も、髪留めで止めてみえていることで、そこはかとなく大人っぽさを醸し出している。


「どうしたの? な、何か言ったら」


「…あ、お、その、似合ってるな」


 焦ったせいか、変な返しになってしまった。


「そ、そう。ありがとう」


 だが、サナもちぐはぐな返しであった。


「とりあえず、いくか」


「えぇ」


 そういって並んで歩き出す俺達。

 は、ダメだダメだ。今日はサナに元気になってもらおうと思って誘ったんだから、俺がリードしないと。


 そう思った俺は、パッとサナの手を握った。

 その瞬間、サナは驚きの表情を見せたが、顔を恥ずかしそうに紅く染めながら直ぐにその手を絡めてくる。

 そんな風に、今更な感じで今日のデートは始まった。



------------------------------------



 大通りに来た俺たちは、通りに並ぶ出店を回ることにした。


「なにか食べる?」


「そうね。あ、あれがいい」


 そういって指をさす先にあったのは、なんとドーナツ屋さんだった。


「なぜドーナツが」


 俺がこの世界にないと思っていたものの遭遇に驚愕する。

 味もいくつかあり、普通のやつ、チョコ、砂糖がたくさんかかったもの、半分だけチョコがかかったもの、そしてどこから仕入れたのか抹茶まである。


「なんか、ミク様が広めたらしいわ」


「何やってるんだか、あいつは…」


 未久のやつも本当にこの生活に慣れたな。まぁ、嬉しいっちゃ嬉しいけど。


「てか、サナ。もう未久を様付けしなくていいんだぞ。サナにとっては義妹だからな」


 そう伝えると「でも…」と困った顔をしてしまうサナ。


「まぁ、慣れないのも仕方がないからな。無理にとは言わないよ」


「うん、ありがとう」


「さぁ、あれを食べるんだろ? どれが食いたいんだ。今日はいくらでも奢っちゃうぞ」


 まぁ、奢るも何も今の収入は俺しかないから俺が払うしか人だけれどな。


「ホントに? じゃあ、全種類五個ずつ」


「そんなにっ?」


 なんか、夫婦になってから遠慮がなくなったな。

 そんなサナの変化に少なからず嬉しさを感じる。

 


---------------------------------------



 ぺろりとあっという間にすべてのドーナツを食べ終えた俺たちは、今度はアクセサリー屋さんへと足を運んだ。

 ちなみに、サナ曰くドーナツはお菓子に入るからいくらでも食べられるということだ。


「これ可愛いね」


「そうだな。これとかも似合いそうだな」


「ほんとだね」


 店先に並んだ商品をいろいろと目を通す。


「なんか、懐かしいね」


 ふと、そんな感傷的な声音でサナが言う。


「ん?」


「前にもさ、こんな風にアクセサリーを買ってもらったなと思って」


「あぁ、そうだったな」


 そう返事をして、サナの顔を見るとどこか不思議な表情をしていた。


「サナ?」


「なんでもない。さ、次のところ行きましょ」


 心に引っかかるような反応に困惑をしつつも、俺はその後を急いで追いかけた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 そんなこんなで、その後は何事もなく二人でショッピングやらいろいろ楽しんだ。

 そして、時はあっという間に進み日が傾き始めてしまった。

 なので、俺はサナを最後にとある場所へと連れてきていた。


「わぁーーーーー」


「多分、来たことないだろうと思ってね」


 俺達が今いる場所は、城の尖塔。

 本当に一番上の上だ。

 実はここは単なる倉庫みたいなところになっていたのだが、俺が掃除をしてきれいにしたのだ。


 もちろん許可はとってある。


 そして、ここの窓からは町が全部見渡せ夕焼けがとても映えるのだ。

 その光景に目を輝かせるサナを見ていると。


「海斗、ありがとね」


 ふと、そう口にした。


「今日デートしてくれて。私を選んでくれて。そして、私を助けてくれて…」


 沈みゆく夕日を背景にそういう彼女は、どこか映画のワンシーンであるかのようだった。


「な、なんだよ藪から棒に」

 

 すると、サナも困った顔をしながら。


「分かんない。なんか、言っとかなきゃなと思って」


「そ、そうか」


「…」


「…」


「また、戦場にいくんでしょ」


 あぁ、なるほど。


 多分、サナは心配なんだ。夫婦になったからこそ、その思いはより大きくなったんじゃないだろうか。 

 家族を一度失っているサナ人一倍それを感じているに違いない。

 そう思った俺はそっとサナを正面から抱きしめる。


「大丈夫。俺はいなくならない、絶対に」


「っ…。そうね、海斗は強いものね」


 そういうサナの声はどことなく安心したような声音を含んでいた。


 今は春。


 もうそろそろ戦いが再開する。


 血と、泥にまみれ、屍がまた幾重にも重なるのだ。


 そこでは死はすぐ隣に存在する。


 もしかしたら、半年後にはもうここには、サナの隣には入れない可能性だってある。


 だが、それでもこの国の人達が、人間以外の者たちが理不尽に殺されるのを見逃すわけにはいかない。


 そして、必ずまたここで最愛の者と共に愛を育むのだ。


 沈みゆく夕日にそう固く誓うのだった。


最後までお読みいただきありがとうございました。

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