第五篇 聖都決戦篇 第一章 異変(1)
チュンチュン。
スズメではないが、似たようななき声を出す鳥のさえずりを目覚ましに目が覚める。
細目の隙間から陽光が差し込み眩しさを覚えながらも、ねぼけ眼をこすりながら身体を起こす。
そして、ベッドの左側に目をやるともう一人分寝れるスペースが空いている。
どうやら既に彼女は目を覚ましているようで、奥の部屋のキッチンスペースからカタコトという音と、おいしそうな匂いが立ち込めている。
俺は布団から裸の身体を出すと、枕もとの用意してある服に身を包み俺もキッチンへと向かう。
中に入ると、鼻唄を口ずさみながら朝ご飯の支度をしているウサギ耳を生やした女性がいた。
静かに近づこうとすると、そのウサギ耳が急にピンっと立ったかと思うとこちらを振り返り、笑顔を携えて毎朝の挨拶を交わす。
「おはよう」
「おはよう」
お互いにそう言葉を交わし、彼女は再び料理へと戻る。
たった一言。
だが、俺はその当たり前でありふれたこの感じに何とも言えない幸福感を感じていた。
俺の名前は滝沢海斗。
不運にも事故にあい、異世界に魔王に召喚獣として召喚されたしがない元高校生だ。
そして、今目の前で朝ご飯を作ってくれているのがウサギの獣人であるサナ。この国の魔王の直近メイドでああったが、魔力暴走による事故を起こし今はその任を解かれている。
加えていうと、俺の妻である。
「ちょっと、そんなに見ないで」
可愛い妻の後ろ姿を眺めていたら怒られてしまった。
見ているだけで照れるなんて…。なんて可愛いんだ。
まぁ、本当は妊娠中ということもあるのでゆっくりしていて欲しいんだけど、まだ大丈夫といって聞いてくれないのだ。
とりあえず仕方がないので、仕事部屋の方へと移動し少しでも事務仕事を進めておこう。
「しかし、あれからもう一か月か…」
俺はこの一か月間のことを思い出しながら感傷に浸る。
正式に俺とサナの関係が認められたことによって、二人きりでなくともお互いを名前で呼ぶことができるようになった。
仕事中もほとんど一緒にいられるし、寝るときも毎日一緒で、夜はもちろん…。
まぁ、夜のこともできるだけ控えたいが、求められては致し方ない。うん、しかたがない。
ただ、時々サナは寂しそうな顔をする。
やはり、彼女の中でメイドという仕事に誇りやプライドを持って、忙しいながらもやりがいを感じながらやっていたのだろう。
そんな姿を見ると、どうにかしてあげたいと思ってしまう。
仕事をこなしながらそんなことを考えていると、いつの間にか結構な時間が過ぎていたようで、キッチンの部屋の方から声がかかったのでそちらに向かう。
「相変わらずおいしそうだ」
「ありがとっ。ほら、早く食べよ」
嬉しそうにはにかむサナの顔を見て嬉しく思いながらも、俺は先ほどのことを考えていたのだった。
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「よし、久しぶりに城下にでも行くか」
その日の夜、隣に寝そべるサナに突然そういう俺。
「どうしたの? 城下にはこの前も行ってたじゃない」
確かに俺は仕事で何回か下に行っているのだが。
「そうじゃなくて、デートしようぜってこと」
「…そ、そう。別にいいわよ」
まさか俺からそんな提案が来るとは思いもしなかったのだろう。平静を装いながらも、頬がいつもよりも紅く、耳がぴんと立っている。
「そうか、じゃあ明日の為にもう寝るか」
そういって、布団をかぶりなおして眠りに着こうとしたのだが。
「海斗…」
寝転がったまま、背中に抱き着くサナ。
そのまま耳元でサナが囁く。
「もう一回だけ…」
「っ…」
そして、その日も夜は更けていくのであった。
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