第四編 恋する乙女篇 第四章 転機(6)
「…」
やはり、衝撃のあまり固まってしまったようですね。
そう思ったのだったが。
「はぁ。やはりか…」
ルーシーが背中を背もたれに預けながらそう漏らした。
「でしょうねと言った感じでしょうか」
次にスフィアもそう溢し、他の三人も同じような反応を示した。
そして、その反応に一番困惑したのはもちろんサラであった。
「あ、あの、皆様知っていらっしゃったのですか」
その質問に答えたのはルーシーであった。
「あれだけあからさまにいつも話したりしておれば、大体は想像がつくからの。それに、ある時から彼奴の魔力に違和感を覚えておったからの。そういうことじゃったなら合点がいくというものじゃ」
サラは驚きが隠せなかった。
皆、いつも引いてしまうほどに恋愛に没入しているように見えていたので、これほどまでに色々と見て、考えていたのだと。
「まぁ、諦めはしませんけれどね」
そう言って妖艶な笑みを零すスフィア。
「そ、そうですね。私もそう思ってましたけどね」
けれど、アリスだけはいつもこっちにいるわけではないので、本当に何も知らないような反応を示し、遠い目になりながら「ハハハ」と笑っていた。
「それで、なぜサラは今それを言うたのじゃ」
一区切りついたところで、そう疑問を呈した。
「いえ、皆さんが解決策を考えるのに行き詰っているようでしたので、もしこのことを知らないのであれば、何か良い案が浮かぶかと考えたのでしたが…。あんまりお役に立てなかったようです。申し訳ありません」
そういって、後ろへと下がろうとしたのだが。
「待ってください」
未久は周りを見渡し「ふぅ」と息をつくと。
「今のを聞いて、一つ良い案が浮かびました。」
――― サナさんをお兄ちゃんの妻としたらどうでしょうか ―――
「…」
一瞬の沈黙の後。
「ちょっと待つのじゃ」
「そうよ待ちなさい」
「それはまた妊娠とは別の話ですよ」
一気にあちこちから不満が爆発した。
ただ、それは提案をした未久自身も持っていることで。
「私だって! 私だって正妻は自分がなりたいんです。けれど、もしもこのままサナさんがいなくなってしまった時、悲しむのはお兄ちゃんなんですよ。其れでも良いって言うんですか」
怒気を放ちながらテーブルに前のめりになってそう叫んだ。
おそらく、みんな心の中では未久の言っていることが分かっていたのだろう。
未久を聞いて、口惜し気な表情はすれど反論の声を上げるものはいなかった。
「スフィアさん。この案を使うとしたら実際どういう形になりますか」
「は、はい。この城から出ることになってしまっても、旦那様の位があれば、妻を城に住まわせることも可能かと」
いきなり降られたことに驚きながらも、しっかりと答える。
「わかりました、ありがとうございます」
再び未久はメンバーの顔を見回す。
サナをこの城にとどめるには他に方法はない。
だが、それをするというのは負けを認めるということに他ならない。
浮かない表情のメンバー。
わかっている。わかっているのだ。
何をすべきなのかは。
けれど、それをしたくない…。
あぁ、これが恋をするということなのですね…。
毎日戦乱が続き、戦いのことばかり考えていた彼女らは、皮肉にもこの時改めて恋というものを明確に感じていたのだ。
しかし、現実というものは残酷で決断をしないという選択肢はないのだ。
「気持ちの整理は出来たかの」
そう口を開いたのは、魔王であるルーシーであった。
立場があるとはいえ、見た目は幼子であるルーシーが口火を切ったのだ。
これ以上、誰も意見を述べるものはいない。皆、静かに首を縦に降る。
それを確認すると。
「では、会議は以上とする」
ルーシーはそう言い残し、すぐに部屋から姿を消した。
他のメンバーも、何か話すことなどもせずに各々部屋を後にするのだった。
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