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第四編 恋する乙女篇 第四章 転機(5)


 海斗とサナが感動の和解を果たした翌日、この城の会議室にルーシーをはじめとした女性たちが集まり、サナ以外での嫁会議が開かれていた。


 ただし、今回の議題はいつものとは少し違うものであった。

 メンバーは、ルーシー、スフィア、ミク、ミーシャ、アリスの四人である。


「今回集まってもらったのは言うまでもなく、サナのことじゃ」


 メンバーの面持ちは暗い。


 口ではライバルを蹴落としたいなどといっているが、みんな本当はものすごく優しい心の持ち主であり、仲が良いのだ。

 そして、ルーシーにとっては幼いころから知っており、直属の世話係の一人である。


 そんなメンバーが今、地下牢に収容されている。

 それ故、この雰囲気は当たり前のことであった。


「具体的に言うと、サナの処遇についてじゃ。スフィアよ」


「はい」


 ルーシーに促され、スフィアが話を引き継ぐ。


「今回の一件で、サナさんには相応の処分が必要となります。一従者である彼女があれだけの被害を出しながら、何も処分を受けないとなると他の者に示しがつきませんから」


 そこまでいって、ミクがバンとテーブルに手をつきながらたちあがる。


「じゃあ、もしかしてサナさんは、その、処刑とかされてしまうんですか」


 スフィアは首横に振る、


「それはないでしょう。もしもこれが恋な物であればもちろん死刑以上の報いを受けてもらいますが、今回はいわば事故です。それに、私にも情がないわけではありませんから…」


 スフィアはそっと目を伏せる。

 それを見ていた他のメンバーもさらに顔を俯かせる。


 だが、それは一人を除いてであった。


「じゃあ、つまりはそのサナさんを周りが納得するような処分にして、なんとかこの城にとどめさせられるようにする方法を考えるってことで言いわけ」


 そう堂々と言い放ったのは、アリスである。


「そういえば、其方はサナに会うたことがなかったのじゃな」


「まぁ、あいつから少しは聞いてたわ。それで、最低限の処分はどんなものなの」


 この中では比較的第三者的視線であるためか、要点を抑えながら話を進めていく。


「おそらく、今の役職は撤廃。簡単に言うと城からの追放ですね」


「そんな…」


 スフィアのその言葉に衝撃を受ける未久。


「なら、今の職がなくなってもこの城にいられるような大義名分を作ればいいんじゃないの」


 それを聞いた他のメンバーは「確かに」と感嘆の声を漏らす。


「でも、その大義名分が難しいのではないですか」


 そう指摘したのはミーシャであった。


「どうしたものかのぅ」


 皆、一様に頭を抱えてしまった。




 その時、部屋の一角から声を上げたものがいた。


「あの、よろしいでしょうか」


 ルーシーの後ろの壁際で待機していた。サラだった。


「なんじゃ、サラよ」


「皆様は今のサナの状況をご存じなのですか」


 それを聞いて、皆クエスチョンマークを頭の上に浮かべる。


「それは、どういうことなの」


 スフィアが我慢できずに問いかける。


「いえ、これは少々問題が生じるものなのでここでは発言は控えさせていただきたく」


 その発言に、一気に部屋の空気が殺伐としたものへと変わる。


「へぇー、ここでは言いづらいことなんですか。それはお兄ちゃんも関わってくることですかねぇ?」


「ほう。己が主人にも話せぬことなのかの」


「そうですね、私もあなたからすると上の立場なのですがね」


「ふん。まぁ、別に私は興味がないけれど、隠し事は看過できないわね」


 そのあまりの威圧に、恐怖を感じてしまうサラ。


「そ、そんな無理やりきくのはよくないかと…」


 そのサラに助け舟を出したのはミーシャだった。だが、その声は後ろになるほど小さくなり、最後の方は全く聞こえない程になってしまっていた。


「ミーシャはそれで本当にいいの」


 その問いかけに、思わず心が揺さぶられるミーシャ。


「ミク…」


「さ、ここでの意見は完全に一致したわね。さっさとはいてもらいましょうか」


 アリスのその言葉をきっかけに、全員が席から立ったかと思うと、皆ゾンビかのようにサラの方へ、ゾロリ、ゾロリと一歩ずつ近ずいて行く。


「ほ、本当にお伝えしてよろしいのですか?  これを聞くと、あなた方は相当なショックを受ける可能性があったとしても」


 その言葉に一瞬動きを止めた一同だったが。


「それは、逆に聞かぬわけにはいきませんね」


 スフィアの声とともに再び動き出した一同。


 それに耐えかねたサラは。


「ひっ! わ、わかりました。話しますからそれ以上近づかないでいただけませんかっ」


 震えた声で了承するほかなかったのだった。

 サラの一言で、皆元の席に戻りサラの言葉を待った。


 テーブルの前まできたサラは、一つ咳払いをすると、もう一度「本当に良いのですね」と確認を取る。

 全員が頭を縦に振るのを確認すると、意を決して口を開いた。


 この後、何が起ころうと私はメイドとしての務めを果たすまでよ。


「…」


 全員の視線がサラに注がれる。


「実は、サナは今…。」




 ――― 妊娠しています ―――




 あぁ、言ってしまった。


 海斗様に好意を抱いている彼女らがこれを聞いて正気を保っていられるはずがない。

 故に、サラは心して全員の反応を待った。




最後までお読みいただきありがとうございました。

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