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第四編 恋する乙女篇 第三章 広がる歪(4)


 あれからまた数日が過ぎた。

 サナとの関係は相変わらずである。ただ、一つ変わったことがある。


 それは、毎日俺の部屋から何かしらの物がなくなることだ。


 なくなるといっても下着が使い古してもないのに新品になっていたり、ベッドの掛布団が新品になったりというものだ。


 おそらく、これはサナがいろいろと絶えられなくなって俺の部屋から持っていったのだろう。

 どちらかというとこのことに気が付いた時、変かもしれないが俺は嬉しさを覚えていた。


 だって、こんなことをするってことは、サナは俺のことを嫌いにはなっていないということなのだから。


 とはいってもサナが怒っている事実は変わりようがないので、俺は何とか現状を打開しようと、禁断の一手を切ることにした。


「で、お兄ちゃん…。さすがにそれは無神経だとは思わない?」


「すみません…」


 その禁断の一手というのは、見ての通り、妹に相談するというものである。

 だが、やはり実の妹に恋愛の話をするなどあんまりよくなかったなと今更ながら後悔してしまう。

 けれど、一週間以上サナとの関係が改善兆しを全く見せなかったので、恥を忍んでいる場合ではないのだ。


「はぁ、まったく。人の気も知らないで…」


「えっ」


 未久がため息をついた後、何か言っていたような気がしたので聞き返すとなぜかキレ気味で「なんでも

ないっ」と言われてしまった。


 うーん。なぜだ?


「それで?」


「ん?」


「相談。まず誰が好きなの?」


「いや、その、好きとかそういうんじゃなくて」


 俺はサナとの関係をどう説明していいかがわからず、しりすぼみになってしまう。

 俺とサナの関係は、はっきりに言ってしまうと恋人関係というほかない。

ただ、その関係はずっと秘密にしてきたわけであって。その理由の一つに、セバスさんから頼まれているルーシーのことがあることがあるのだけれど、相談したい内容がその部分であるからして。


つまり、すべて話さないと問題は解決しないが、新たな問題が生まれる可能性があるということだ。

そんな風に、怒られている子供のように座っている目の前のテーブルをじっと見つめて固まっていると、それに見かねた未久がバンッとテーブルを叩く。


「お兄ちゃんっ!」


「はいっ」


 強気の口調にビクッと情けなく反応し、背筋を正す俺。

 その上げた顔にぐっと顔を近づけ、その華奢な手を俺の両頬をパシッと挟み込む。

 気が付けば、今にもキスしてしまうかのような体制で、俺はものすごく動揺してしまう。だが、そんな俺とは裏腹に未久が俺を見つめる視線には何か訴えてくるような、そんな印

象があった。


 その視線を受け、俺も先ほどの動揺はなくなり、思案する。


 そして、一つの決心をする。


 そのことを俺の目から感じ取ったのか、頬を少しほころばせパッとその可愛らしい両手を放し、そっと席に戻る未久。

 俺は、静かに身なりを整え表情を真剣なものへと変わる。


「正直に言うと、俺とサナは付き合っている」


 俺がそういった瞬間、未久の顔に一瞬影が差した気がした。だが、すぐに笑顔を作ると、


「…そっか」


 そういって「お兄ちゃんに恋人ができてくれて嬉しいよ」と後に続けた。


「お、おう」


「それで、相談っていうのはサナさんとのことでいいの?」


「あぁ。実は…」



 これまでは頑なに黙っていたルーシーや、スフィアのことについて順を追って話していく。

 今まではずっと、これは自分自身で悩み、考え、決断しなければいけないと考えていた。だが、未久のおかげでようやく他人に話すことができた。


 俺の話を聞き終わると、未久は優しい声音で「お兄ちゃん」と呼ぶ。

 それに表情を硬くすることで答えると、


「それはお兄ちゃんが悪いよ」


 その声は、怒っているというよりも、叱っているという感じである。


「たしかに、普通に考えたら複数の人と関係を持つのはいけないこと。その考えは私たちだけじゃなくて、こっちのほとんどの世界の人達もそう考えていると思う。けれど、法律上は何の問題もない。だからこそ悩んでいるんでしょ?」


 俺はその問いに頭を縦に振る。


「でも、それを決めるのはお兄ちゃんとサナさんの二人だよ。これはお兄ちゃんの問題じゃない、二人の問題だよ」




 ――― 頼ってもらえないって、辛いんだよ? ―――




「…っ」


 未久が放った最期の言葉に、ぎゅっと胸を締め付けられたような気がした。


 確かに俺は今日までさんざん悩んでいた。けれど、それはきっと俺だけじゃない。

 サナだっていろいろと悩み、考えていたはずだ。それなのに、俺は自分の事しか見えなくなってしまっていた。


 そう思った瞬間、俺はいてもたってもいられず。


「未久、ありがとう!」


 そう言い残し、部屋を飛び出していたのだった。



最後まで読んでいただきありがとうございました。

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