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第四編 恋する乙女篇 第三章 広がる歪(3)


 ルーシーとの視察という名の仕組まれたデートを危なげなく終え帰路についていた。

 帰り道は行きの時と違い、落ち着いているルーシーとともに楽しく会話をしながら道を行く。だからこそ、私はある大切なことを忘れていた。


 一応お忍びであるために、城内に入るには裏口から入る必要があるために後ろへと回る。そして、一見そこにドアがないように見える壁を「コン、ココン、コン」と独得なノックをする。すると、それに呼応してただの壁だったところがぱかっと開き城内に入ることができたのだが…。


「「「おかえりなさいませ」」」


「うむ」


 そこで、朝のことを思い出す。お忍びといっても、城の外の者たちなどには知らされないだけで、上席の者たちはこのことを知っているということ。そして、それはサナも例外ではないということを。

 そう、扉を通り抜けた先。俺達の帰りを待っていたのはセバスさんだけではない。


 城へと続く細い石畳の道の上に並ぶ三人のメイド姿の女性。


 彼女を見た瞬間、せっかくほぐれていた体は信じられない程に硬直し、まるで足が地面に縫い付けられたかのように身動きが取れなくなってしまった。

 そんな俺の様子にまったく気が付かないルーシーはとことこと城へと向かって歩き出してしまう。


 それに合わせ、サナ達もルーシーの後を追う。

 サラさんとサエさんはこちらに軽くお辞儀をしてから、その場に固まっている俺のことを心配げに瞳に映す。


 一方、サナは俺の方は一切視界にいれることはなく踵を返してしまう。


 なにか、何か言わなければ…。


 俺は口をパクパクと動かして必死に声を上げようとする。だがしかし、結局俺が声を発することはなく、またいつかと同じくただサナの背中が城の中に消えるのを見ているのみであった。

 そんな俺の姿を、セバスさんは気まずいような申し訳なさを含んだ表情でこちらを見つめていた。


-------------------------------------------------



「バンッ」


 自分の部屋に戻ったサナは、テーブルに己が怒りをぶつけていた。

 その反動によってテーブルの上に飾ってあった過敏が倒れ、水がテーブルの上を這い、そのまま床へと流れ落ちてゆく。


 だが、それを全く気にせずもう二・三度テーブルを叩く。


「ガシャンッ」


 そして、今度は先ほど倒れた花瓶が転がり落ち大きく音を立てる。

 幸いというべきか、その音のおかげでサナはようやく正気を取り戻す。


「っ…。はぁ、私はなんてことを」


 自分を取り戻したサナは現状を把握すると、その惨状にもともと憂鬱だった気分がさらに増徴された。


「いったい、どうしたら…。私は、もう…」


 仕事を終わらせ、一人の少女であるサナに戻ると最近の彼女はいつもこのように取り乱していた。ただ、今日はその取り乱し方は尋常ではなかった。


 その理由としてはやはり、夕方の海斗が魔王であるルーシーとともに仲良く帰宅したことにあった。


「私はここしばらく海斗とろくに話していないのに、なぜ魔王様だけ」


「いや、違う。スフィア様もそう。ミーシャも、リリエッタも、未久様も…。なんでなんでなんでなんでなんでなんで…」


 今度は壁を思いっきり殴りつける。


 じいんと痛みを感じる。


 それがサナをサナで保っているかのようでもあった。 


「ぼすっ」


 後ろのベッドに背中から倒れこむ。

 そして、自然と目からは涙が流れ落ちる。


「分かってる。其れも違う。ただ、私が頑固なだけ。私が変わればすべて丸く収まる。わかってる。わかってるけれど…」


 妬ましさと、自分の浅ましさへの嫌悪感。そのはざまに挟まれ、サナは今にも押しつぶされそうなほどであった。

 その圧力は日に日に増大していき、今にも海斗を殺して自分も死んでしまうかもしれない程に。

 その夜、サナは「あいつのせい、自分のせい」と二つの感情がいつまでも堂々巡りし続けるのであった。

 

そして、時間が経つうちそのサナを黒いオーラのようなものが包んでいるのを誰も気が付くことはなかった。



それはもちろん、サナ自身も…。




新年あけましておめでとうございます。

投稿が遅れてしまい本当に申し訳ございません。これ、毎回言っていますね…。すみません。

先日の冬コミはどうだったでしょうか? 私はとても満足の結果でした。


えぇ、それでは、今年は頑張って更新速度をできるだけ、できるだけあげられるように努力していく所存ですので、また今年も作品ともどもよろしくお願いいたします。

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