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第四編 恋する乙女篇 第二章 変化(6)


 スフィアが目を覚ますと、蹲りながら泣いていたはずであったのだが、どういうわけかいつものように寝ているような形でベッドの上に横になっていることに頭をひねる。


「旦那様?」


 そこで何にも音がしないことに気がつき慌てて周りを見回すが誰の姿も部屋にはなく、彼女が作っていた料理がお皿に盛られテーブルの上に並べられていた。


「はぁ」


 結局、旦那様にご飯を食べさせてあげることができなかった。それに、あんなものまで見られてっ…。

 自分と思い人である海斗との夢小説を、よもやその本人見られてしまったという事実から羞恥に頬を紅く染めるスフィア。


 そんな風に、悶えていると。


「うぅ」


 突然、ベッドの近くで声が上がる。

 慌てて目線を下にやるスフィア。すると、そこには床に膝をつきベッドに体を預けて寝てしまっている海斗が寝息を立てていた。


「旦那さまっ」


 誰もいないと思っていたところに、海斗がいたことに驚き声を上げてしまうスフィア。しかし、熟睡しているのかその声にまったく反応を示さず寝息を立て続ける海斗を見て、スフィアは安堵する。


 よかった…。もし、今旦那様と真っ向から目を合わしたら絶対にちゃんと顔を見ることができないだろうから。


 そんなことを思いつつ、スフィアはそのまましばらく海斗の寝顔を眺める。そして、そっと顔にかかっている髪を起こさないようにそっと後ろに流す。

 そうしてよく見えるようになった海斗の顔を観察でもするかのように顔を近づける。


 普段であれば卒倒してしまうであろう近距離で。


「はぁ、旦那様。私はこんなにもあなた様のことを思っているのになぜ気が付いてくださらないのでしょう。私の愛がまだ足りないというのでしょうか…」


「今、私と旦那様はこんなにも近くにいるのに、心はもっと遠くに感じてしまう」


 そんな悲しい感情が心を支配する。

 海斗への想いから、彼女の心は既に青色へと変わってしまっていた。


最初は、甘く切ない恋心からピンクに染め上げられていたのだが、想いと現実での差からその色はどんどんと変化していき、今ではネガティブな青色からさらに色を濃く、黒くしてしまっているのだった。


そして、その黒く染まりつつある心はとある考えを想起してしまう。



――― このまま、私の者にしてしまえばいい ―――


 

 おそらく、普段のスフィアであればこのようなことを心の底で考えていたとしても、それが表層へと上がってくることはなかっただろう。


 だが、今回はそうはならなかった。


 海斗とともに同じ空間で二人きりで食事をとれると思っていた大きな期待。一方、夢小説を見られたことにより自分の気持ちがばれてしまったという恥ずかしさと、悲しみ。

 そのギャップから、彼女に駆けられていたはずの心の鉄格子が外されてしまったのだ。


 恐る恐るスフィアの手が海斗に近づく。


 そして、両手で生まれたてのヒヨコでも救い上げるかのように海斗の顔に触れその行為がしやすいように顔を上へと向ける。


 そうして顔を近づけ彼を眺めるその瞳はどこか焦点が合っていないようになり、目じりはとろんと下がり、息はあがっている。


 そして、二人の顔の距離がどんどんと数字を減らし…。



ゼロとなった。



「っ…」



 だが、そこで海斗は目を覚ます。

 海斗はいきなりの状況に頭が追いつかなかったが、本能的に体を引いてスフィアとの距離をとる。


 一方スフィアはというと。


「はっ…。あ、ぁあ…」


 意識が戻ったかのように、先ほどまでの異常な様子は消え、目ははっきりと困惑をあらわにしている海斗を捕らえ、息は逆にできない程になっていた。

 その様子は、まるで自分がしていた行為が信じられないというように。


「ス、スフィア。今のは…」


 ようやく思考が追いついてきて、海斗が戸惑いを示すスフィアに問いかける。

 だが、次の瞬間。


「ごめんなさいっ」


 そういって、いきなりベッドから飛び出すとその横にあった窓を開け、そのまま外へと飛び出す。


「スフィア!」


 飛び降りたスフィアを何とか止めようと窓枠に飛びつく。


 だが、海斗が飛び降りたと思っていたスフィアはいつもできるだけ小さくしている背中の翼を大きく広げ、空高く羽ばたき城下の方へと飛んで行ってしまっていた。


「何なんだよ…。ほんと」


 小さくなっていくスフィアの姿を見つめながら、自然とそうこぼしていた。





 スフィアが飛び去ってしまった後、窓を閉めると椅子に腰を下ろして天井を見つめる。


「はぁ」


 思わず出るため息。

 それもそのはずだ。今日だけで、二つも大きな問題を作ってしまったのだから。其れも、すぐには解決できそうにない問題を。


 しばらくそのまま呆けていたのだが、いつまでもそうしているわけにもいかず、椅子から立ち上がる。

 そして、目に入る机の上の料理。


「仕方がないか」


 俺はそれらに魔法をかけて、冷凍状態にすると仕事をするために自室へと戻るのだった。

 

 


最後まで読んでいただきありがとうございました。


投稿遅くなってしまい申し訳ないです!

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