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第四章 恋する乙女編 第二章 変化(3)


「ずいぶんと成長したね」


「そうですか?」


「あぁ、あんたがここに来た時と比べると信じられないくらい変わってるよ」


 そんなリサさんの言葉に、私はお皿を洗う速度が自然とあがります。

 サナさんとあんなことがあってから二週間、すっかり病気も治って今は元気に仕事に励んでいます。

 そして、徐々に私のメイドとしてのスキルも上がっています。なんと、この一週間お皿を一枚も割らずに洗い終えているからです。


「ほら、この後別の仕事があるんだろ。集中しな」


「は、はいっ」


 私はだらしなく緩んだ表情を引き締め今、目の前の仕事に集中します。


「パキッ」


「あ…」


 無事に…。無事に皿洗いを終わらせた後は、海斗様の部屋に向かいます。

 実は昨日からサナ先輩に言われ部屋掃除をさせていただけるようになったのです。


「お、おまたせしました」


 少し時間が押していたので早足で海斗様の部屋へ向かうとすでにサナ先輩が仕事を始めていました。

 そんな私を一瞬だけ見ると、すぐに仕事を再開してしまいます。


「何やっているの、昨日教えたところを急いでやりなさい」


「は、はいっ」


 数秒身動きを取れなかっただけですが、私が何をすべきかわからないのを見抜いた先輩は厳しい口調ながらも指示を出してくれます。

 とにかく、私は昨日教わった仕事を出来るだけ急ぎ、かつ丁寧にこなしていきます。


 ちなみに今、海斗様は魔法の鍛錬をしているためここにはいません。ですが、戻ってくるまでにこの部屋を完璧に掃除しなければなりません。

 そして、この後も何度か怒られながらも今日の仕事を一生懸命にこなしていきました。

 夜、大体の仕事が終わった頃、私はサナ先輩の部屋へといき反省会を受けます。


「一つ一つの仕事が遅い。こんな仕事をしていてはいつまで経ってもあなた一人に仕事を任せるのは無理ね」

 

 こんな風に…。


「すみません」


 その後もずっと説教は続き、五分後…。


「ぐすん」


「泣いても仕事は上手くならないのよ。まったく…、いつまでも私が傍にいられるわけじゃないんだから」


 瞬間、私は下に向けていた顔をあげます。

 そして、私は確かに見ました、先輩の顔に垣間見えた微かな陰りを。


「今のって、どういう…」


 先輩の言葉の真意を尋ねようと口を開きますが、それは先輩によって止められてしまいます。


「はい、今日の反省会は終わりよ。ほら、さっさと残りの仕事に就きなさい」


 それだけ言って、すぐさま机に向かい作業を始めてしまいました。有無を言わせない雰囲気に、私はただその部屋を後にすることしか選択をできませんでした。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 冬もいよいよ本番といわんばかりに、窓の外では雪がちらつき既に家屋の上には白い雪化粧が施されていた。

 そんな様子を椅子に座りながら眺める俺。今日は、こんな天気ということもあり、俺はひたすら自分の事務仕事をこなしており、今はその休憩といったところだ。


 そうやって一息ついていると、頃合いを察してかいつの間にかサナさんが部屋を訪れ、日本でいうところのコーヒーを置いてくれる。

 俺は、紅茶も飲むが意外とこちらの方が俺の知っている味に近いため好みだ。


「ありがとう」


 俺がお礼を言いながらそのコップに口をつける。


「お疲れ様」


 すると、一応周りを確認したサナがそう普段通りの口調でなぎらってくれる。

 そして、俺の後ろに回るとそっと首に腕を回して体を預けてくる。いわゆるあすなろだきというやつだ。


 俺は、その彼女の片方の手に自分の手を重ねる。すると、どちらともなく手を絡ませお互いの存在を確かめ合うようにコツンと頭をくっつける。


 はっきり言って、俺にとっての一息はコーヒーを飲むとかそんなんじゃない。彼女と、サナと触れ合う時間、この瞬間が俺にとってとても大事な時間だ。


 ただ、いつまでもそんな風にもしているわけにもいかず、二、三分くらい経った頃サナの方から身体を離す。

 なぜ、サナからなのかというと、初めてこんなふうに休憩を取った時、俺の方が切り替えることができず、結局夜まで仕事をすることになってしまったからだ。


「それでは、私はこれで失礼します」


 なので、すぐさま態度を仕事モードに切り替えて俺が仕事に専念できるようサナが一役かってくれているのだ。


 本当はサナも同じ気持ちを持っている身でありながらも。


 だからというわけではないが、彼女が一礼をしてドアに向くべく後ろを向いた瞬間、俺はパッと席を立ち、サナの肩を掴みこちらを向かせ。そして一瞬、触れるだけの接吻を交わす。


 だが、俺はすぐに態度を変え。


「では、仕事に戻ってくれ」


 そう言って、仕事に戻る…。はずだったのだが、自分でやっておきながら恥ずかしさのあまり、顔を逸らして固まってしまった。

 一方、サナはというと。俺の突飛な行動に困惑していたのだが、何が起きたのかを理解すると、嬉しそうな、でも恥ずかしそうな表情を浮かべて。


「はい、失礼します」


 そう言って、頬を赤く染めながら足早に次の仕事場へと向かうのだった。

 


最後までお読みいただきありがとう御座いました。


そして、投稿が遅くなってしまい申し訳ありません。私情がひと段落しましたので、これからは徐々に投稿速度を戻していきたいと思います。はい、多分…。

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