第四編 恋する乙女篇 第二章 変化(2) ~ミーシャ~
魔王城の裏側に、小さな小屋がぽつんと立っている。いかにも簡易的に建てられたその小屋に、一人の少女が机に向かい必死に頭を抱えながらペンを走らせていた。
「魔王国の魔法は本当に素晴らしいものばかりだわ。あぁ、なんでもっと早くこっちに来れなかったのかしら」
少女の名はミーシャ。元勇者パーティーに所属していた魔法使いで、勇者である滝沢未久が魔王国側の人間となった時から、ミーシャは一応捕虜の身という立場であった。
だが、海斗の計らいにより晴れて自由の身となったのだが、捕虜の時に読んだ魔法書に感激して魔法研究をすべくこの国に残ったのだ。
それならばと、海斗がルーシーに頼み小屋を作らせてもらい、そこで研究をしていたのだった。
そして、その小屋のドアを叩くものが一人。
「ミーシャ、いるか?」
「あ、はい。ちょっと待ってください」
ミーシャは突然の来客に、慌てて自分の身なりを確認し、手で服や髪を整えてからドアのそとにいる者に声をかける。
「い、いらっしゃい」
「おう。調子はどうだ」
そう言ってほほ笑みながら部屋の中へと入ってきたのは、彼女をここにとどませられるように尽力した海斗である。
ミーシャはさっき使っていた机とは別の、中央に置かれた机の上に散乱している書類を無造作に押しのけてスペースを開ける。
そして、これまたお約束というように暖炉近くに散乱していた書類やら本やらを端っこにまとめて、火を起こし、やかんでお湯を沸かす。
そんな彼女の姿を見慣れているというように、中央にある机の椅子に座る。
「研究はもちろんなんだが、たまには片付けくらいしろよ」
ミーシャはその言葉に苦笑しながら海斗とは反対側に腰を下ろす。
「だって、本とか読み始めると夢中になっちゃって…」
「まったく。しょうがない奴だな」
やれやれと首をすくまる海斗に、恥ずかしさを覚える。
「そ、そういえば。最近ずっと戦場に行ってたみたいだけど、大丈夫?」
「あぁ。少し、予想外のことが起こったが今はサナさんが対処してくれているから大丈夫だ」
「そうなんだ」
海斗の言葉にミーシャはホッと胸をなでおろす。
そして、その後もしばらく会話をしているとやかんが鳴き始めたのでミーシャはお茶を用意し海斗の前に差し出す。
海斗はコップを持つと、香りを楽しんでから喉を濡らす。
「本当にミーシャの紅茶はおいしいな」
海斗は「ふぅ」と一息つきつつ感嘆の言葉を漏らす。
「えぇ、そんなにぃ?」
そんなことを言いつつ、紅茶を誉められた嬉しさから頬が緩む。
「あぁ。なんなら毎日、毎朝飲みたいな」
海斗は何でもない感じで、誉め言葉を送ったのだが…。
「ま、毎朝…」
ミーシャは急激に顔を紅くする。
ま、毎朝ってことは、つまり。その。朝から海斗の傍にいるってことで、その、それは…。
「ミ、ミーシャ?」
いきなり頭から煙を出し始めたミーシャに、海斗は戸惑いながら声をかける。
「はへっ? あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていただけだから」
「そ、そうか」
食い気味にそう言うミーシャに、体を引いて答える海斗。
その後、ちょっとした菓子をつまみつつ少しの間のティータイムを二人は楽しんだ。
-----------------------
「それじゃあ、また来るから」
「うん。いつでも来ていいからね」
そういって、彼の後ろ姿を見送る。
はぁ、行ってしまった。
今日も楽しい時間だったなぁ。
私は胸に手を当てる。近くに誰かいたら聞こえてるんじゃないかと思うほど心臓が脈を打ってる。
あぁ、温かい。そして、辛い…。一体全体、私はどうしてしまったのだろう。
いつもは何ともないのに、海斗と話した後はいつもこうなる。
「はぁー」
なんだかよくわからない体調を不快に思いながらも、どうしようもないので研究に戻るミーシャであった。
ついに、投稿が100になりました。
今回も、最後まで読んでいただきありがとうございました。
自己満な作品となっておりますが、気に入っていただけたならどうぞこれからもよろしくお願いします。




