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Dear My  作者:
【本章】 衝突 篇
58/58

56,霊力研究開発局/連絡通路・午後

生きてるよ〜ってことで更新します。1話だけだけどネ。次の話で1年以上詰まってます。


 時は数時間前、メイラから招集が発出される直前にまで遡る。

 スズミと共に初めて開発局へ訪れた際に受けたフロフトの要望へ律儀にも応えるべく、ジェンは彼の元を再度訪ねていた。


「剣の面倒も見てくれるなんて、ありがとうございます。……それにしても、前に見たあの胸当てはメイラさんが壊したってアレ、未だに信じられないんですけど」

「はっはっは。こちらこそ、興味深いものを見せていただきました。やはり『能力』とは良いものですなあ」

「そう、ですか? オレの『能力』、あんま見所無いと思うんですけど。取り柄と言えば範囲と威力だけですし、爆弾とか、他の兵器でいくらでも代えが利きそうじゃないですか」

「何と仰いますか! そんな事は断じてありません。ジェンさんの『能力』の本質はずばり、()()()()()()()にあります。『能力』は霊力を燃料として発現するものですから、とにかく相手を熱くしたり動かしたりするような、()()()()()ものがほとんどで、逆に相手を冷やすなど()()()()作用をする『能力』は希少なのです。(Ⅳ)の低温耐性だって、滅多にお目に掛かれるものではありません。

 それに、どんなものであれ『能力』とは唯一のもの。貴方にしか出来ない事が何時か、何処かで必ず見つかる筈ですよ」


 穏やかなフロフトの言葉にジェンは、そういうものですか、と独り言のように呟く。


「…………あ。じゃあそれならスズミさんの『能力』って、熱くする『能力』と冷やす『能力』、どっちになるんですか?」

「良くぞ訊いて下さいましたッ! そうなのです、実はスズミさんの『能力』は液体、正確には常温、常圧で液体の物質であれば熱するも冷やすも自由自在な、非常に、非ッ常に希少なものでして、更に水に限って言えば気体の操作まで──……」

「…………」


 熱い語り口調で捲し立てるフロフトの横で、話は折角面白いのに時々早口過ぎるんだよな、などとジェンが考え始めていた、直後。


 重々しい銃声が、開発局中へ響き渡る。


「!? 何ですか、今の!?」


 反射的に耳を塞ぎかけたジェンが恐る恐る頭を上げる一方、フロフトは、ふむ、と顎へ手を添えた。


「屋外整備場へ少し寄り道をしていきましょうか。運が良ければ、帝国が誇る最先端の技術を間近で見られますよ」

「えっ、無料(タダ)で見て良いものなんですか、それ? いや、嬉しいんですけど!」

「ふふふ、ジェンさんにだけ特別です」


 にこやかに笑うフロフトの言葉に胸を弾ませつつ、ジェンは彼の後を付いていく。

 ────それから。


「……!?」


 言葉通りに連れられた整備場で、ジェンは目にする事となる。


「ご無沙汰しております、イグナー先生。見学者一名、宜しいですか?」

「ああ、ベノン先生。こちらこそご無沙汰しております。構いませんよ」

「ちなみに、弾種をお聞きしても?」

「はい。霊力薬莢、(Ⅴ)の防御貫通弾です。対魔力障壁を想定して開発された代物なので、破壊力も反動も徹甲弾と遜色無い筈なのですが、流石ですね。身体強化ありきとは言え、ほとんど体勢がぶれませんよ、彼」


 整備場で記録を取っていた白衣の男──イグナーと親しげに会話するフロフトそっち退()けで、言葉も出ないまま釘付けとなった先。

 狙いを定め、引き金を引き、遊底をずらして排莢する。一連の動作を淡々と繰り返し、臓腑を揺さぶる轟音を物ともせず、丸太に括り付けられた的を次々と粉砕していく男──ケイの姿を。




 路地裏/硝煙臭う道・夜




 煌々と宙を奔る熱線。次々と穿たれる地面。

 各々の銃声が飛び交う中、ユーリアは地上を駆けながら、ケイは空中を飛びながら、銃口を互いへ向け合って路地を並行に南下していた。


 ケイの空中における移動を可能にしているのは彼の「能力」、という訳ではなく、胸と両脚へ身に付けられた飛行用の装備である。当然だが術式兵器であり、三点一組のそれぞれに刻まれた術式の名称から、一般的に飛空術式と呼ばれている。

 前後左右に加え上下の移動軸を持ち、構造物による行動の制限を殆ど受けない為機動力に優れ、更にケイに関しては飛空術式の短所である、重量の制限が厳しく限られた防護服しか装備出来ないという点を身体強化で補っていた。しかし。


「何なんだ、あの霊力砲……!?」


 絶えず銃撃を続けつつも、ケイは自身の直ぐ横を通り抜けていく眩い光線に目を(すが)める。


 現に今、ケイはユーリアを相手に苦戦を強いられていた。

 小銃型霊力砲の特徴として、引き金を引いたままにすると熱線が射出され続ける、即ち熱線が射出されている間、銃口に対し垂直方向へ本体を動かすだけで自由に火線を張る事が出来る、というものがある。とは言え短時間に幾度と可能な芸当ではなく、連続して使用すれば当然過熱(オーバーヒート)で動作不良を起こしてしまう。

 しかしユーリアの霊力砲──小銃型霊力砲──はケイとの戦闘が始まってからというもの、過熱(オーバーヒート)する様子を一切見せないまま今も尚、銃口から熱線を噴き続けている。更に威力もケイが知る限りの同型の霊力砲を上回っており、彼の身体強化を貫通し得るものであった。そして極め付けは、ケイの得物が単発式の小銃である事。火力と制圧力で完全に有利を取られ、頼みの機動力も完全に無意味である。


 やがて三つ辻へと突き当ったユーリアは、速度を保ったまま細い路地へと勢い良く滑り込んだ。建物の合間から出てきた彼女を狙うべく空中で静止したケイは銃を構え直そうとするも、直後に路地を覆う(ひさし)の陰から屋根板を貫いてきた熱線を紙一重で躱す。


「くっ……!」


 ちり、と、頬を掠めた熱線が、ケイの頭髪の先を焼いた。

 ケイの目が離れた隙にユーリアは外壁の配管を足場に屋上へと登り、彼の元へ真っ直ぐに駆けていく。標的が自ら、牽制も無しに接近してくるという好機。体勢を再度整え、既に照準を覗いていたケイは、ユーリアの足元へと狙いを定めた。


 ──────が、躊躇。

 内部に無関係の民が居るかも分からない建物へ銃口を向けている状況が、引き金に掛かったケイの指を僅かに鈍らせる。

 図ったか否か、ケイの至近までまんまと近付いてみせたユーリアは、ここぞとばかりに屋根の端を踏み切った。


「……獲った!」


 力の限り腕を前へ伸ばし、ユーリアは霊力砲の引き金を引く。

 やや飛距離が足りないと思われた位置からの一射は、確かにケイの足──飛空装備の一つを捉えていた。


 膝下から踵までを覆う、概ね脛当ての形状をした脚部の飛空術式。その踵部分が熱線に融かされ、歪んだ術式から全体へ大きく()()が入る。


「!? クソ……ッ!」


 姿勢維持の制御を失い、がくん、と大きく体勢を崩したケイは、破壊した術式の余波でぼろぼろと崩れていく装備の破片を尾に引きながら、大きく螺旋を描くように墜落していった。

 道二本分ほど向こうへ消えゆくケイの姿を視界の端に見つつ、ユーリアは眼下の路地へと着地し、すぐさま付近の住居の陰へ走り込んで息を一つつく。


「……言われた通り霊力砲にしておいて、本当に良かった。これで機動力は互角。最短距離で他に合流される線は潰した」


 手にしている小銃型霊力砲の銃身を撫でてから背へ収め、ユーリアは一丁の拳銃を腋下の拳銃嚢(ホルスター)から取り出す。


「でも、それだけ。同じ手はもう通じない。残りの霊力も半分を切ってる。

 ────最低限の役割も果たせない、なんて許されないわよ。私」


 自身へ言い聞かせるように呟いたユーリアは、拳銃の遊底を引きながら背にした住居の角へ身を潜め、遠方の様子を窺う。暗闇の中、何者の接近も感じ取れない事から、彼女は帝国軍兵(ケイ)が墜ちていった方角からまだ然程動いていないと読んでいた。

 奇襲を掛け、小銃の長い銃身の内側へ一気に入り込む。そう意気込んだユーリアが眼前の道へ飛び出そうとした、正にその時。


 ざり、と地面を擦る音と共に、突如としてケイが彼女の背後に現れる。

 彼の手にしている小銃の先には、鈍い光を放つ銃剣が取り付けられていた。


「ッ!?」


 振り向くと同時に二、三度発砲するユーリアだったが、それら全てをケイは易々と掻い潜る。そして先程の意趣返しとでも言わんばかりに肉薄し、彼女の顔面へ目掛け掬い上げるように銃剣を突き出した。

 迫る刃を前に思わず構えた姿勢を解いて()け反ったユーリアが、しまった、と胸中で呟いたのも束の間、一歩前に出たケイは銃床を使って彼女の手から拳銃を素早く叩き落とす。そして下向きに小銃を持ち替え、そのまま自重と共にユーリアの胸へ振り下ろした。

 仰向けに倒れてから間を置かず、ユーリアは咄嗟に銃身を受け止める。暫し動きの止まった二人だが、その(せめ)ぎも長くは続かない。既に両者の身体強化率は最大であるが、そも、身体強化とは元来の身体能力に依存するもの。体格も筋力も上回るケイの力にユーリアが対抗出来る筈もなく、彼女の腕は徐々に曲がっていく。


「舐めるなよ、破落戸(ごろつき)!」

「……っ、舐めてなんか、いません!」


 自身に切先が到達する間際、一層力んだユーリアは銃口を傍らへとずらす。勢い余って地面へと突き立った銃剣をケイが引き抜くが早いか否か、彼女は両手を地面へついて身を捻り、彼の(あばら)を両足で蹴った。

 後ろへ蹌踉(よろ)めいたケイを尻目にユーリアは後方へ距離を取り、拳銃嚢(ホルスター)に残っていたもう一つの霊力砲──拳銃型霊力砲を抜いて構える。


「……お前、もう霊力残ってないだろ」

「それが、何か?」

「悪い事は言わない。投降した方が良い。霊力切れになる前に──……ッ!?」


 刹那、ユーリアの霊力砲が火を噴いた。

 中って殺せたならそれで良し、回避されても光で視界を塞げる──彼女の意図を一目で見抜いたケイは頭部に飛来する光弾を回避し、同時に銃剣を斬り下げて彼女の接近を牽制する。


「本気で続けるつもりか?」

「はい。私の役目は貴方の足止め。霊力切れ程度が今更、何だって言うんですか」

「…………」


 継戦の為なら捨て身すら辞さない様子のユーリアを前に、ケイは顔を顰めた。




 路地裏/闇に閉ざされた細径・夜




 謎の人影を探すべく、只管に路地裏を真っ直ぐに走るジェン。

 新月や曇天の夜ならまだしも、月夜の下ではそれなりに夜目の利く自覚があった彼だが、彼の目には未だ遠影すら捉えられていない。

 身体強化で放出されている霊力にも特段の揺らぎは無く、苛立ちにも似た焦りを感じ始めていた──────。


 そんなジェンの姿を、何者かが空き家の上階から見下ろしている。

 その人間は、自身の身に付けている手甲(グローブ)から鋼線──鋼線を巻いた薄い絡車(リール)が埋め込んである──を咥えて幾分か引き出した後、ぱちんとナイフで切断した。


「……?」


 ふと違和感を覚え、上空を仰いだジェンが立ち止まろうとする。

 一歩、二歩、と惰性で進んだ彼の足がふと、がちり、と何かを踏み抜いた。


「えっ」


 瞬間、炸裂音と共にジェンの足元が弾け飛ぶ。

 咄嗟にその場から飛び退き、辛くも直撃を免れたジェンは、何事かと眼前を凝視しつつその場から二、三歩離れる。しかしそこで、先刻と同じ感触が再び彼の踵を伝った。


「ッ、二度も、食らうか!」


 素早く身を捻り、ジェンは爆発を跳んで回避する────が。

 一体誰が言い出したか。二度ある事は三度ある、のだ。


「は?」


 着地の一歩を踏んだ直後、地面から飛び出した鋼線の渦がジェンの膝下へ絡み付き、滑車──仕掛けの真上、家屋の屋上の(へり)へ取り付けられている──へ勢い良く巻き取られ始めた。


「あ、ちょっ!? クッソ、何だこれ、改造にも限度ってモンが──………!?」


 恨み言も虚しく、滑車の馬力に為す術も無いまま、ジェンは捕えられた片脚諸共、身体をずるずると引き摺り上げられていく。


 やがて、彼が宙吊りとなった頃。巻き取りを終えたのか、滑車が動作を停止した。


「…………マジかぁ」


 文字通り天地がひっくり返った光景を前に数秒ほど言葉を失った後、ジェンは溜息混じりにぽつりと呟く。


 踏み抜いた者を捕らえた上で逆さ吊りにまでする、見え透いた悪辣さを感じさせる罠。それにまんまと引っ掛かったにも関わらず、ジェンの心境は至って冷静なままだった。


 軽侮、嘲笑、嫉妬、欺瞞。

 他人(ひと)からの悪意にどう対処するべきか。その標となる者の姿を、彼は知っている。


 ()いている剣をゆっくりと抜いたジェンは、弾みをつけて上体を起こし、剣を横一閃して鋼線を両断した。

 くるりと体勢を変えて難無く着地し、ジェンは行く先へ体を向ける。そして霊力を解放して「能力」を発動し、剣を構えて────。


 無言のまま、正面を風と共に斬り払った。


 吹き荒れる旋風に反応したのか、道に仕掛けられた罠が次々と起爆していく中、爆風も収まらない内に走り出したジェンだったが、またも何かの気配を感じ取り、すぐさま足を止める。


 それは、()()()()姿()()()()()


「へ、へへ。()りいが(あん)ちゃん、ちょっとばかしオレ等に付き合ってくれよ」

「オレ等の(タマ)ァ懸かってんでな、ハハ。相手してくれよ、頼むぜ。な?」


 未だ拭えぬ違和感、爆発する罠、震えながら武器を取る浮浪者達。


「────ッ、そんな時間、オレには無えんだよ!!」


 一目で状況を察したジェンは遂に抑えていた苛立ちを露わにするも、彼等を無力化するべく剣を構えたのだった。


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