もう何年も恋をしていない。
僕、南颯太は高校3年生。もうすぐ高校生活最後の夏を迎える。それでも僕は恋をしない。高校生という1番青春を味わうことのできる時期をドブに捨てている。
僕には忘れられない人がいる。
幼なじみの佐藤陽菜乃だ。小さい頃からよく遊んでいた。天然でおっちょこちょいな陽菜乃は1人では何もできない。だから僕がずっと側にいた。
「颯太、一緒に遊ぼう!」
「うん!近くの公園に行こうよ!」
家の近くに塗装の剥がれかけた滑り台とブランコしかない小さな公園があった。住宅に囲まれているので夕方を過ぎても明かりに照らされる。僕たちはよくそこで遊んでいた。
僕らは遊具ではなくかけっこや隠れんぼをすることが多かった。今となればあんな小さな公園でそのような遊びをしてもすぐ捕まるから別の遊びの方が良かったのではと思うがそれもまた良い思い出だ。
お互いの家に行ってゲームをすることもあった。
「ずるい〜!こんなの勝てるわけないじゃん!」
昔からゲームが得意だった僕に当然陽菜乃が勝てるわけがない。よくすねていた。まぁそれも可愛らしかった。
陽菜乃がいた時の方が今よりよっぽど青春してた。あの頃はいつも明るく元気だった。しかし今では友達も少なく、明るいとは言えない。恋とはそこまで人を変えてしまうものなのだ。とても忘れることのできない初恋だった。
だが、陽菜乃は小学6年生のときにフランスに引っ越してしまった。そのとき僕はあまりの悲しさに涙を流すだけで声をかけてあげられなかった。今でも後悔している。
「颯太、また会おうね!元気でね!」
泣きながらも笑顔で別れを告げたあの時の陽菜乃は今でも鮮明に覚えている。
陽菜乃がいなくなってからは完全に恋とは無縁の生活を送ることになった。ずっと陽菜乃が忘れられない。故に新しい恋なんてできるはずもない。
僕はまた会えることを願っています。
あの頃の君が忘れられないから。