第六話 『平穏』
残された時間は 新しい日々へと変わる
いつもと変わらない日常でも 大切な宝物
隣であなたが笑うだけで
世界がこんなにも煌くことを知った
――――――――――――――――――――――――
両親は車で一足先に自宅へ帰った。
俺が、夏休みの間はここに残りたいと言った時は驚いていたが、両親もばあさんも深くは追及せずに快く了承してくれた。
放任主義の家庭は、こういう時には本当に助かる。
ただ、じいさんだけは、
「ひと夏の恋でもしたか?『あばんちゅーる』か!?しゃっーしゃっしゃっ!」
と、からかう様に馬鹿笑いをしやがった。
…まぁ、あながち間違ってねーけど。
一見ただのボケ老人のくせに、妙に鋭いところが余計に腹立つ!こなくそー!
俺はいつもの様に家を出て、あの場所を目指す。
川沿いのそのバス停に、今日は彼女の姿があった。
「もしかして、待ってた?」
「べっ、別に!さっき来たところよ!」
昨日の一件が余程恥ずかしかったのか、顔を赤らめながら不機嫌そうに言い放つ。
神様、リアルツンデレをありがとう!
自転車に二人乗りで、今日は村を一周しながら『世界樹』へ行こう、ということになった。
ペダルを踏み、キミを乗せて、いざ出発!
緩やかに移り行く風景の中で、俺は彼女に色々なことを聞いた。
「そういや、何処に住んでるんだっけ?」
「…御神木を管理してる、村外れの神社」
「神主さんと一緒に?」
「いや…、神主に気付かれない様に気配を消してるの。姿も見えない様に」
便利だなぁ精霊さんは!
彼女曰く、この自転車も神社の物で、黙って勝手に使っているらしい。俺がこの村に来るまでの間、相当乗る練習をしたとのこと。初めて出逢った時も、夢中で俺に気付かなかった程だ。
「てゆーか何で自転車に乗ろうと思ったんだ?」
「移動手段はラクな方がいいじゃない」
「精霊なんだから飛べばいいじゃん」
「飛べるかーっ!あなた、精霊を何だと思ってるの!?」
それから服なんかも、神主さんの奥さんやその娘さんの物を日替わりコーディネイト☆だそうだ。
神主一家はなんかもう、そういう現象に慣れているんだろうなぁ。精霊についてのことは神社の故事とかにあるかもしれないし。
「あれっ!?お母さーん、あたしの白いワンピース知らなーい?」
「お母さーん、僕の新しいジャポニ○絵日記は~?」
「見てないわよー!また精霊さんが借りてったんじゃなーい?」
「なんだ、そっかー」
「新品だったのに~!精霊さんのバカーっ!」
……みたいな光景を思い浮かべて、俺は思わず噴き出した。
「……どうしたの?ちょっとキモイな」
いつも通りの彼女の反応に少し安堵した。でも俺はMじゃないぞ。
気を取り直して再び質問タイム。
「メシはどうしてるんだ?」
「基本、盗み食い」
なんか……切なくなる!
「御神木の精霊って、他にも居るの?」
「うじゃうじゃ居る」
その言い方をやめい!
「その中で、どうして『キミ』なんだ?」
「…神様は…、あたしの気持ちに気付いてたから…」
「えっ、それってどういう…」
「なっ、何でもないわよ!ってか死んで!天寿を全うして孫たちに囲まれて死んで!」
…幸せな未来をありがとう。
「本当の名前はなんていうんだ?」
「精霊D。もしくは精霊その4」
…残念な子だな。
「何で名前を『彩夏』にしたんだ?」
「なんかキレイじゃん、響きが。あと字が」
そーですね。(テレフォンショッキング風に)
「本当の歳はいくつだ?」
「女性に年齢を聞くのは失礼だゾ♪」
おっ、調子出てきたねぇ!
「本来の姿はどんなだ?」
「えっとぉ~、妖精みたく可愛いよぉ~?」
ちょっとイラっとしたゾ☆
「大昔からここに居るのに現代の事象に詳しいのは何でだ?」
「…ずっとこの村を見ているからね。生活をしてる村人たちと何ら変わりないよ。若い子だっているしね」
「今時の若い子は『うんちゃ』なんて言わない」
「うるさいわね!ネタよ!わざとよ!これが逆にナウイのよ!チョベリグよ!」
なんかツッコむのもめんどくせぇーなぁもう!
思えば、俺は好きだと言った彼女のことを何も知らないのかもしれない。
それでも、この気持ちに嘘はないと言い切れる。理屈じゃないんだよ、きっと。
「そうだ、明日は海に行こうぜ!」
「…えっ?」
唐突な言葉が虚を衝いたようだ。
「夏と言ったらやっぱ海じゃん!神主の娘さんの水着でも借りてこいよ!てゆーか海でのイベントCGくらい回収させてくれよマジで!」
「意味が分からーんっ!でもなんかキモーイ!そしてキモーイ!」
ついさっきツッコミを覚えた彼女が、自転車の後ろで楽しそうに笑う。
なんか…〝キモイ〟を二回言われた気がしたが、そこはあえてスルーだ。傷付いちゃうから。
「でもそうだね、何もかもが初めてだし…行ってみよっか、海♪」
ひゃっほーーーーーーーいっ!!
その言葉に歓喜した俺は、猛スピードで自転車を走らせた。
「水着、楽しみにしててね♪」
前方に注意をしながら振り向けば、悪戯っぽく彼女が笑う。
そんな笑顔も、ずっと見ていたいと思った。
まだ知らない部分を、もっと知りたいと思った。
残された時間、迫り来る『別れ』に何処か怯えながらも、せめて今だけは……。