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第五話 『告白』

これ以上は何も打ち明けずに さよならを告げるつもりだった 


  だけど あなたの言葉が 何よりも大切に思えたから


もう少しだけ… この夏が続くことを願ってしまったんだ


運命の歯車が僅かに狂い出したのは 神様のイタズラ?


…それはきっと 優しいイタズラ





――――――――――――――――――――――――





目を覚ますと、胸の辺りに痛みが走った。

「フラれたんだな……、俺」

失恋をすると、本当に胸の内側が痛むということを俺は知った。

花火大会の後のことはあまり覚えていない。ただお互い気まずくて、会話らしい会話はほとんどしていなかった気がする。

(全て俺の勘違いか……。女という生き物は謎だらけだな)

後悔はしていない。どのみち、俺は明日になれば自分の街へ帰る。だから、これで良かったのかもしれない。

気持ちを無理矢理切り替え、身支度を済ませていつもの様に居間へと向かう。でも正直、あまり食欲はない。

(リストラされたお父さんか俺は!?あるいは恋する乙女か!?)

得意のツッコミも心なしかキレが悪い。

(……別れを言いに行こう。あと、お礼と)

この5日間、夢の様な時間を過ごさせてもらえたのは彼女のお陰。

だから、感謝の言葉。


昼前に家を出た俺は、いつもの川沿いの道を歩いていく。

いつの間にか待ち合わせ場所になっていた、初めて出逢ったその場所に、当然彼女の姿はなかった。

ここから『世界樹』まで一人で行くのは一年ぶりになる…。

坂を上り、スロープを下り、橋を渡って、草原を進む。

〝世界樹〟のふもとへ辿り着いた俺は、目の前に広がる景色の中にキミを探していた。

(今日は流石に来ないかもな…)

久しぶりに思えた一人きりの時間は、お気に入りの場所でも今は寂しくて、俺はいつもの様に大樹の根に頭を預けてそっと目を閉じた。

遠くから聞こえる蝉時雨、風に吹かれる草の音、近くを流れる川のせせらぎ―――

自然の声に耳を傾けながら、そのまま遠い世界へと誘われた。




……………………………………。




夢を見ていた―――


小さな男の子の夢を。



幼い彼はある日、偶然一冊の本と出会う。


夢中になって読み進める男の子。


気が付けば、彼は物語の中の少女に恋をしていた。


幼心にも、叶うはずのない恋だと分かっていた。



どうしてキミに触れられないの?


どうして同じ時を生きられないの?


どうして違う世界に生まれてしまったの?


どうして……?



それでも男の子は、架空の少女と出逢う、そんな幻想を思い描いた。


いつもの様に、とても大きな樹の下で、少女の夢を見ていた。


あの日からずっと―――




……………………………………。




夢から覚めた俺は、全てを思い出していた。

そして、全てを理解した。


「ねぇ知ってる?この『世界樹』の言い伝え」


「この『世界樹』の下で同じ夢を見続けるとね、その夢が叶うんだよ」


「……その夢が叶うのは、僅かな夏の間だけ」


彼女の言葉を思い返しながら、大樹の隙間から見える藍色の空を、寝転んだまま茫然と眺めていた。

意識もはっきりとしてきた時、傍らに何かの気配を感じた俺は、そっと視線を向ける。

……物語から抜け出して来た少女。

少し戸惑った様な儚げな表情で、けれどいつもの調子で口を開く。

「……おっは~」

「……いつの時代のあいさつだよ」

シリアスな展開をブチ壊す彼女の言葉に、思わず噴き出しそうになりながらそう言った。

しばらくの間、二人は黙って遠くを見詰める。


「…ねぇ知ってる?」

彼女が再び沈黙を破った。

「『世界樹』の下で、女の子から告白されて成立したカップルは、永遠に幸せになるんだって」

「話変わってんじゃん」

そんな冗談を軽く一蹴し、俺は意を決して彼女に告げた。

「全部…、思い出したよ。全部…、繋がった」

「えっ…?……そう」

少し驚きながらも、何かを理解した様に呟く少女。

「何で黙ってたんだよ!?」

苛立ちながら問う。

「言っても信じてくれなかったでしょ?それに…、あたしはいつまでもここには居られないから…」

彼女の言う『ここ』とは、現実世界―――?それとも……。


俺は核心に迫った。

「物語の少女にそっくりな姿形をした、『キミ』は一体何なんだよ?」

自己嫌悪に陥りそうになるほど、酷い言葉を吐いた。

そんな俺を許す様に、優しく包み込む様に、彼女は真実を打ち明けた。

「……あたしはね、この『世界樹』…んーん、この御神木を護る精霊なの。遥か昔からこの地で御神木と共に在り続け、御神木と共にこの村を見守り続けている。この姿は、ある男の子の夢を形にしたもので、本来は人には姿も形も見えない存在ね。以上、説明終わり!」

…そんな非現実的な話も、今なら信じられる気がした。何度か感じていた違和感の正体も、それなら説明がつく。

初めて逢った時のことも、『世界樹』の伝承を教えてくれた時のことも、祭りの夜のことも。

そしてきっと…、俺の気持ちに応えられないと言ったことも。


それでもまだ幾つか残る疑問を投げかけた。

「なんで…人の夢を?」

「それはね、御神木を崇め、祈りや感謝を捧げたり、この地の安穏を願ったり…、村人たちのそんな純粋な心に対するお返し…つまり御利益ね。精霊たちは神様の力を借りてそれを形にするの」

「じゃあなんで、その…俺の夢を?」

「あなたは…誰よりも御神木を愛し、この場所を大切に思ってくれたでしょ?だから。神様がそうしなさいって。それが『あたし』に与えられた初めての使命。その使命を果たす為に、この夏が始まった時から、ずっとあなたを待ってた」

そして彼女は、懐かしむ様に昔のことを話し始める。

「…よく覚えてるよ?毎年、夏だけやって来てここで昼寝をする男の子のことを。いつも見てたから。今年出逢った時も(あの子だ!)ってすぐに思ったよ。で、話を聞いて確信した。去年より大きくなって…。ほんと、人の子の成長には驚かされるわね」

母親が子供を愛でるかの様な慈愛に満ちた眼差しで、俺に語りかけた。


最後の質問。

「……『僅かな夏の間』って、正確にはいつまでだ?」

急に切なげな表情をした彼女が、目を逸らして答えた。

「…きっと、あと10日くらい。そんな気がする…。その後あたしはこの姿を失い、再び元の姿に戻る。だから―――」

「だったら!」

彼女の言葉尻を掻き消す様に強く言った。

「だったら、残りの時間も一緒に過ごそう。今は夏休みだし、俺はここに残るから…、最後の瞬間まで傍に居させて欲しい。だからもう……『気持ちに応えられない』なんて、そんな悲しいことを言うな!」

「…………」

大きく見開いた彼女の瞳からは、次第に涙が零れ出した。

俺は思わずその肩を抱き寄せる。

腕の中で震える小さな体は、さっきまでの余裕すら感じさせない、少女そのものだ。

「ごめんね…、京一。……好きだよ。本当は、ずっと好きだったよ…。この身体を与えられる前から、何年も前から…子供の頃から…ずっとあなたを見ていたよ。去年だって…、初めて触れ合えた…この夏だって…」

涙で声を枯らしながら、堰を切った様に溢れ出す想いに、告げられる言葉に、俺も子供みたいに声をあげて泣きじゃくった。


何度も歳月を振り返るキミは、短すぎた季節に涙したんだね。

零れ落ちたその数だけ、愛しさに気付いた―――


「ありがとう」



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