エピローグ
数年の歳月が経ち、例年と同じく夏にこの村を訪れた。
『世界樹』へと続く道の途中にある、小さな停留所でバスを降りる。
照り付ける日差しの暑さに、この心は踊った。
何かを期待させてくれそうな、そんな季節―――
見渡したその風景は、あの頃のまま、何も変わってはいない。
感慨深げに眺めながら、一人立ち尽くしていた。
すると、小学生くらいの男の子と女の子が、『世界樹』の伝承の話をしながら目の前を通った。
思わず懐かしくなり、その声にそっと耳を傾ける。
「ねぇ知ってる?あの『世界樹』の言い伝え」
「あの『世界樹』の下で同じ夢を見続けるとね、その夢が叶うんだよ」
「ただし条件があるの。一つは純粋な夢であること。欲深い夢や悪意のあるものはダメ。二つ目は何度も何度も同じ夢を見続けること。最後は…、その夢が叶うのは、僅かな夏の間だけ」
「でもね、その夢は……、夏が来るたび叶うんだよ」
子供たちの声が聞こえなくなった時、目の前に一人の少女が現れた。
麦わら帽子をかぶった、白いワンピースの少女。
一年振りの挨拶を交わす。
「ただいま」
少女はそれに応えた。
「うんちゃ、おかえり♪」
その手には、これからたくさんの思い出が書き記されていくであろう、真新しい日記帳。
そして、いつかの小さな腕時計。
川沿いの一本道を二人並んで歩き始め、そっと手を繋いで少女は微笑みかける。
「今年もまた、『夏』がやって来たね♪」




