第十一話 『希望』
もう二度と逢えないけれど ずっと見守っているよ
例えその目に この姿が映らなくても
例えその耳に この声が届かなくても
あたしはずっと ここに居るから―――
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八月に舞った、涙色の夢―――
少女が消えた夜、憔悴しきった俺は、重たい足取りで家へと帰った。
何もかもが終わった様な気がした。世界でただ一人、自分だけが不幸な気がした。
これから何を希望にして生きればいいのか――、それすらも分からなくなった。
出逢ったことが『間違い』だなんて思わない。思いたくもない。
結ばれたことが『過ち』だったなんて、思うはずがない。
けれど…、想像以上に重く圧し掛かった現実は、この両手では抱え切れなくて、俺は目を伏せたまま、ただ途方に暮れることしか出来ずにいた。
キミが残した愛しすぎる笑顔と淋しさが、今この胸に突き刺さる。
もう二度と、あの笑顔には逢えないんだ……。
本当に、もう二度と……。
すると、俺の気配に気付いたじいさんが、玄関にやって来た。
「京一、晩かったな。『あばんちゅーる』でハッスルしてたのか?」
「…………」
そんなじいさんの軽口には答える気にもなれなかった。
尋常ならざる俺の姿を見て、じいさんは心配そうに尋ねた。
「……何かあったか?」
俺は質問を質問で返した。
「……じいさん、知ってる?『世界樹』の言い伝え」
じいさんは不思議そうに俺を見ながら答えた。
「御神木の事か?確か…その下で同じ夢を見続けると、その夢が叶うという…。この村の人間なら誰もが知ってる言い伝えじゃが…、一体誰に聞いたんじゃ?」
「少し…長くなるから」
居間のテーブルに場所を移し、俺は幼い頃の話からこの夏の出来事に至るまで、全てを話した。
じいさんは疑う様子もなく、ただ真摯に俺の話に耳を傾けてくれた。こういう時のじいさんは、いつもみたいな冗談は決して言わない。そんなじいさんだから俺は好きだった。
俺が話し終えたのは、すっかり夜も更けた頃だった。
じいさんが静かに口を開いた。
「…そうか、そんなことがあったのか。言い伝えは本当だったんじゃな。しかし、本当にその体験をしたというヤツは、ワシの知っている限りお前が初めてじゃよ。…その夢は、さぞ純粋な夢だったんじゃろうな」
「信じて…くれるの?」
「かっはっは。自分の孫が信じられない訳なかろう」
じいさんは笑顔でそう答えてくれた。それだけで救われた気がした。
何もかもを思い出に変え、生きていかなければ―――、そう思った。
「京一よ…、貴重な体験をしたな。辛いのも分かる。けどお前はその少女のことをもう諦めるのか?本当にそれでよいのか?」
答えの決まっているその問いに苛立ちを抑え切れなかった。
「諦めきれないけど、どうしようもないじゃないか!?僅かな夏の間だけなんだよ!もしもう一度彼女に逢えるというなら、俺は何だってするよ!でももう無理なんだ!どうしようもないんだ!」
気付けば俺は泣き喚きながら、抑え切れない想いをじいさんにぶつけていた。
…俺はガキだ。どうしようもないくらいに、ガキのままだった。
すると、じいさんはからかう様に、それでいて慈しむ様に俺を笑った。
「かぁーっはっはっはっ!京一、お前アホじゃろ?」
俺はその意味が分からず、呆気に取られながらじいさんの言葉を待った。
「なに……来年もまた、『夏』はやって来るわい」




