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第34話 被害者はのちに語る

「目が覚めたか!」


「お兄ちゃん大丈夫!?」


 目を開けると、サミアさんとアリサちゃんが心配そうに僕をのぞき込んでいた。

 どうやら僕は船の医務室に寝かされているらしい。


「て、敵部隊は、どうなりましたか?」


 もうろうとする意識の中で僕がたずねると、サミアさんが優しい口調でそれに答えた。


「安心しろ。もう既に撤退している。そして少佐から伝言だ。

『次に戦う日までには少しは鍛えておけ』だそうだ」


 それを聞いて僕は一気に青ざめる。


「てことはまたすぐに侵攻してくるんですか!?」


 サミアさんが苦笑した。


「そうではない。これは少佐の負け惜しみだ。再侵攻が当面ありえないことは少佐とてよく承知している。

 その上でそなたらの善戦…いや、勝利に対する敬意と嫌味を込めた少佐なりの捨て台詞だ」


「しょ、勝利?」


 その言葉に僕は違和感をおぼえる。


「でも、僕たちはほとんど負けてました。分散した敵をユニゾンドライブみたいな反則技で奇襲しておきながら、それでもあのままいけば最終的に沈んだのは多分こっちの方です」


 もちろんその結果として一時的な撤退に追い込みさえすれば僕たちの目的は達成されるわけだけど、戦闘的にはせいぜい痛み分けだろうか。

 そんな僕の疑問にサミアさんが呆れた顔をした。


「シロウトの少年少女が乗る老朽艦1隻が相手だったのだぞ? しかも緩衝宙域で先行偵察艦が消息を絶った中での出来事だ。軍人なら油断は到底許されないし、ユニゾンドライブとて未知の絶対的な兵器ではない。現行世代艦に優越する程度の性能を短時間発揮できるだけの、火事場の馬鹿力に過ぎないのだからな。

 そんな中で2個小隊が2隻も沈められ、2隻が大破して半数以上の戦力を喪失させられたのだ。これが敗北でなくて何と言うのだ」


 そう言われるとそんなものなのかなという気がしなくもない。


「それにしてもよくただのミサイルをオトリにするあんな戦法を思いついたな! 頭の固い軍人には到底できない発想だ。さすがだぞ!」


 サミアさんが尊敬のまなざしで僕を見つめる。


「うん、凄かったよお兄ちゃん!」


 アリサちゃんまでキラキラと顔を輝かせている。

 い、言えない……。

 あの戦法が、本当は全然大したことのない僕を過大評価してスキを見せる2人を相手に、その思い込みにつけこんでは下着を盗んで汚す。そんな僕の最低な行為から思い付いたものだなんて、絶対に言えない。

 つまり通常ならほとんど役に立たないはずのあのミサイルは、僕自身なのだ。

 それを最初の戦闘でこちらを過大評価させることで、さも秘密兵器のごとく誤解させて相手がその事実に気付く前に素早く撃破して逃げる。

 要は、これまで僕が働いてきた卑劣な変態行為をそのまま具現化した戦法なのだった。

 それをその当の被害者たちから手放しで称賛されるというのは、なんというか実にいたたまれない。


「な、なんとなくその場で思い付いて、かな……」


 僕はそう誤魔化すしかなかった。


「それで本職の軍人を手玉に取るとはやはり自分の目に狂いは無かった!」


「ステキだよお兄ちゃん! やっぱりお兄ちゃんは私の王子様だね!」


 ダメだ。2人とも自分たちがまず騙されてることに全然気づいてない。

 あまりの罪悪感に、僕はついこう漏らしてしまう。


「で、でも、敵が冷静にこちらの実力を観察して対処すればダメだったかもしれません」


「いいやそんなことないぞ。あれは相手の思い込みを突いた見事な心理戦だった。後で一杯食わされたことに気付いた少佐は実に悔しそうだったな」


「ただのミサイルなんかに騙されるなんてとってもみじめだよね、お兄ちゃん!」


 早くサミアさんも自分の思い違いに気付いてください。

 それとアリサちゃんは、それ自分のことも言ってるからね。

 後ろで笑いを必死に噛み殺しているラティファさんが、僕はすごくうらめしかった。


「そ、そんなことより。どうしてサミアさんたちは一緒に帰らなかったんですか?」


 僕が引きつった笑みで無理やり話題を変えようとすると、途端にサミアさんの顔が曇った。


「そなたは、自分に帰って欲しかったのか」


「え? いや、でも、捕虜なんて嫌ですよね」


「自分は帰りを待っていると言ったではないか。それなのにどうして勝手に帰ることなどできようか」


「そ、それはそうです、けど」


 マズイな。何でちょっと怒ってるんだろうか。


「それよりもだ。戦闘が終わって腹は空いていないか? 汗を流すために風呂を先にするか? そ、それとも……、自分の方が、いいか」


 僕はブッと噴き出した。

 恥ずかしそうにうつむくサミアさんの隣でラティファさんがニコニコと笑っている。つまらない入れ知恵をしたのはこの人か!


「残念でした~。戦いが終わったらお兄ちゃんは今度は私を可愛がってくれるんだからね!」


 そうアリサちゃんが勝ち誇るけどサミアさんは動じなかった。


「あれは絶望的な状況下での士気を保つための方便だろうが。それを真に受けてどうする」


「ち、違うよね!? そんなことないよね、お兄ちゃん」


「いいや、何も違わない。現にその後でさとし殿は貴様の言葉を無視して自分に交渉を任せてくれている。つまり、命がかかったあの局面で最後に信じたのはこの自分ということだ」


「そ、そんなのウソよ。お兄ちゃんは私と一心同体だもん!」


「フンッ、しょせん貴様は妹どまりということだ。対等の立場で互いを信頼し合える正妻せいさいの器ではない」


 サミアさんは何やら勝ち誇っているけど、僕こそサミアさんと対等の立場にはとても立てないんですけど……。

 あのまま僕らの船が沈めば捕虜の立場から解放されて帝国に戻れるのに、わざわざ自分から上官と対立してまで撤退交渉をまとめて一宿一飯の恩を返そうだなんて。本当にどこまで高潔な人なんだろうか。

 バレなければ構わないとばかりにコソコソと下着ドロを働く僕にはまぶしすぎる。

 アリサちゃんと一緒にそう僕がショックを受けていると、不意にドクターから報告がきた。


「複数のワープアウト反応を感知!」


 まさか帝国の部隊がもう戻ってきた!?

 当面再侵攻はないはずなのに、この動きは完全に想定外だった。


「そ、そんな……」


「ウソ……」


「少佐め、まさか約束を破ったのか!?」


 撤退が偽装に過ぎなかったと知ってそれぞれが絶望のうめきを漏らす。

 だけどドクターの報告には続きがあった。


「こ、このパターンは連邦艦です!!」 


 それは、待ちに待った瞬間だった。







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